レイシャルメモリー後刻
第11話 煮ても焼いても鴨の雛 2
「誰かいないのか?」
大声を出し、耳を澄ました。ドアの向こう側でガタガタと物が崩れる音がして、音がおさまってから、おもむろにドアが開く。
「い、いらっしゃいませ!」
出てきた十四、五の若い女が、顔を引きつらせた笑みを浮かべた。お辞儀ついでに足元を撫で、いたぁい、とつぶやく。顔を引きつらせていたのは自分が怖いわけではなく、何かぶつけたからだったのだろう。こんなのに店番をさせていいのかと、ウィンは疑問に思った。女は栗色の髪をかき上げ、大きな同系色の瞳をウィンに向けてくる。
「あ、あの、換金でいらっしゃいますか?」
明るく高い声が換金所に響き渡る。
「いや。いくらになるか知りたくてな。金に替えるかはそれから決める」
そう言いながら、ウィンは荷物から目玉を取り出してカウンターに置いた。女は大きさに驚いたのか、目を丸くしてその目玉を見つめている。
「あ。今測ります。ちょっと待ってくださいね」
自分が何をしなくてはならないのか思い出したのだろう、大きさを測る紐を取り出して、目玉に巻き付けた。値段表を取りだし、その紐の長さを見比べる。
「ええと。失礼ですが、ウィン様でいらっしゃいますか?」
なぜここで自分の名前が出てくるのか。だが、相手は警戒するのもバカらしいほどの子供だ。
「……、そうだが?」
ウィンがそう返すと、女はにっこりと微笑む。
「この大きさの品物をお持ちになった方には、お名前をうかがうようにと、レイクス様に仰せつかっております」
「あ? レイクスだ?」
はい、という元気な返事を聞いて、ウィンは心の中で舌打ちをした。レイクスはフォースの本名、ライザナル皇太子の名前なのだ。換金した金は、私設の軍隊を作るための資金になるはずだった。だが、フォースの自衛のために、換金すら渋られるかもしれない。
「こちらの大きなのは、ご希望があれば城と交換していただくようにと、レイクス様が」
「あのやろ、やっぱり手を回し……、?! しっ、城だとっ?!」
「はいっ」
ウィンの素っ頓狂な声に、女はまたハキハキと返事をした。
3へ