レイシャルメモリー後刻
第11話 煮ても焼いても鴨の雛 3


「こちらをご覧ください」
 女は後ろを向いて、棚から一枚の地図を取り出した。丸まっている地図を一生懸命広げているのを見ていられずに、ウィンは地図の端を押さえた。
「ありがとうございます! ええと、城はルジェナ・ラジェス領内、ラジェスにほど近い場所に立っておりまして」
 ウィンは、女が地図を指差した先をのぞき込んだ。城のある場所は、ルジェナにもあまり遠くなく、ラジェスで私設の兵を集めるのによさげに見える。攻め込むための拠点には最適だと思われるくらいの立地条件だ。レイクスは自分を遠ざけるどころか、暇つぶしに側に置いておきたいのかもしれない。だが、目玉で城を手に入れてしまうと、傭兵を集める資金が足りないだろう。城の維持費もかかる。
「あとですね、これだけの金額をお付けしろとも」
 女は地図をウィンに預けたまま後ろを向き、紙を一枚取り出した。地図の上に置かれたその紙には、あまり綺麗とは言い難い字で契約書との文字と城のこと、そしてその金額が書かれている。ウィンは数字のゼロの多さに思わず吹き出した。
「金額って、この数字か!」
「はい。それとも、規定通りの金額にいたしますか?」
 女は相変わらずにこやかにウィンを見ている。規定通りでは、付録の金額より少ない。こんなにいい条件を出されたせいで、ウィンは何か罠にはめられているような気がしてきた。
 だが。罠だとしたら何の罠なのか。金だけでも多いのだ。もしかしたら城という拠点を寄越して、軍資金まで付けたつもりか。これでは攻めてこいと言っているようなモノだ。軍隊ごっこでもする気だろうか。それならそれで受けて立ってやろうと思う。この金額なら私設の軍をすぐにでも組織できそうだ。
「城にする」
「わかりました、仰せのままに。それでは今から私がご案内させていただきますが、よろしいですか?」
 ウィンがうなずいてみせると、女はヒョコッと頭を下げた。
「私はケティカと申します。ウィン様、少々お待ちくださいね」
 そう言うとケティカはドアの向こうに消えた。またガタガタと何かを蹴飛ばした音がした。

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