レイシャルメモリー後刻
第11話 煮ても焼いても鴨の雛 5
城は白く大きめの石でできていて、角の部分を赤い石で飾り付けてある。ちょっと見た感じは可愛らしくも見えるが、日が当たっていないせいか幾分暗く見えた。馬車は扉のない門をくぐって中へと入っていく。入り口なのだろう、堅い木でできたアーチ型の扉の前で馬車が止まった。
ウィンは馬車の扉を開けて外に出た。建物も大きいし、前庭も結構広い。どのくらいの人数を集められるだろうと、思いを巡らせた。
「どうぞ中をご覧になってください」
ケティカが扉をコンコンと叩くと、中から扉が開けられた。お辞儀をしたまま下がったその人物を見て、ウィンは息をのんだ。間違いない、母親だ。もう随分前に家を出ているのだが、面影が残っている。
「い、今のは」
「レイクス様が管理を任せているご夫婦です。できれば続けて雇って欲しいとおっしゃってました。いい方たちですので、是非そうされてくださいね」
ケティカは母親に、私が案内しますので、と下がらせた。母親はお辞儀をして、すぐ側に生けてある花を直してから中に消えていった。ウィンは顔を合わせずに済んで安心したが、残念だったような気もした。だが、これが偶然だなどということは無いだろう。レイクスがそうしたのだろうか。あのジェイストークなら、難なく探してきそうだと思う。
もしかしたら、あの高い金額は本当に城の維持費のつもりなのだろうか。両親と会わせれば、攻めるのをあきらめるとでも思ったのかもしれない。それはいくら何でも甘いだろうと思う。だが、そう思いながらも、確かに国にたてつくところを親には見せたくはないと考えてしまう。
やってくれる、とウィンは思った。だが同時に、あきらめたくないという思いも湧き上がってくる。これを罠だと思って仕掛けたのなら逆効果になるとは考えなかったのだろうか。
「ウィンさん、こちらにどうぞ」
ケティカはまるで自分の家のように、城へと入っていく。ウィンも後に続いた。
玄関に入ったところの空間は天井も高く、大きめな階段が描く曲線が優雅だ。ただ、誰のだか分からない女性の肖像画が目に付いた。
「あ、中にある物も自由に使ってくださっていいそうです」
そう言われ、ウィンは改めて部屋の中を見回した。見るからに高そうな家具や調度品が品よく置かれている。
「食器類からなにから、すべて揃っているそうですよ。いらない物は処分して構わないとおっしゃってました」
金持ちという人種は、こういう物を金に換えられるとは思わないのだろうか。自分がフォースの立場なら、相手を把握するために、余計な金を持たせることは避けるだろう。いや、金に替えられることすら知らないかもしれない。これだけでも、結構な額になるだろうとウィンは思った。
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