レイシャルメモリー後刻
第11話 煮ても焼いても鴨の雛 6


 だが、花を直していた母親が脳裏をよぎった。使用人としてではなく城主の親として、ここで暮らさせてあげたいとも思う。慎ましやかな人だから、自分から望んで贅沢な暮らしはしそうにない。こんな機会は二度と訪れないだろう。
 そう考えてから、ウィンは思いを振り切るように首を振った。自分の目的はそれじゃない、敵を討つことなのだ。そうしないと、ダールもセンガも浮かばれない。
「これが城の見取り図、これが鍵ですからね。お金は二階の書斎に置いてあるとおっしゃってました」
 おっしゃってました、おっしゃってましたと、ケティカは相変わらずやかましい。そう言われるたびにフォースが頭に浮かぶのも鬱陶しい。
 ウィンは無言で見取り図と鍵を受け取った。その見取り図を広げてみると、ウィンが思っていたよりも城は大きいようだった。道に面した分よりも、敷地が奥に広がっている。
 この分なら、すぐに行動に移してもよさそうだ。戦が終わり、実際はどうであれ人々は幸せを感じている。だが、それを頭から信じられない奴も多いはずだ。もちろん今ならば、直接フォースに恨みを持つ者もいるだろう。そういう奴を探すなら、メナウル寄りのルジェナよりはラジェスだ。
「ちょっと出てくる。馬を貸せ」
「え? 駄目です。これからウィン様に城をお渡ししたと、報告に行かなくてはならないんですから」
 ケティカは、まるで優しく子供をしかるように人差し指を立て、ウィンに言い聞かせるように言葉にした。ウィンは疑問を直接口にする。
「報告って、どこにだ」
「ルジェナ城ですよ、決まってるじゃないですか」
「中に入るのか!」
「お城に入らないで、どうやって報告するんですよぉ」
 まずはラジェスと思っていたウィンだったが、ルジェナ城の中を見るには、滅多にない良い機会だ。
「俺も行く」
「どうしてですか? あ、お城を見たいんですか?」
 攻めるために知っておきたいのが真実なだけに、ウィンはその言葉に動悸を覚えた。だが、それを悟られるようなことはしていないはずだと考え直す。
「違うだろ。城をもらったんだ、礼くらい言いたいだろうが」
「でも、レイクス様にお会いできるかは分かりませんよ?」
 本当ならフォースに会わずに済ませたいとウィンは思う。だがもし会ってしまったとしても、どんな反応を返すかを見てみたいのも事実だ。それによって、本当に攻めて欲しいのか、敵意はあるのか、など色々と判断できるだろう。
「直接会えなくても、側近の者に伝言くらいできるさ」
「あ、そうですね。じゃあ、一緒に行きましょう。すぐでいいですか?」
 笑みを浮かべて聞いてきたケティカに、ウィンは、おお、と返事をした。

7へ


前へ シリーズ目次 TOP