レイシャルメモリー後刻
第11話 煮ても焼いても鴨の雛 8


 それは、フォースが皇帝クロフォードの息子なのだという事実を、ウィンに突き付けていた。フォースに敵を打つことは、皇帝を心酔していたダールにとって、逆に追い打ちをかけることにもなるのかもしれない。だがウィンは、それでもあきらめたくないという気持ちが、自分を支配していることをも感じていた。
 ダールは死ななくてもよかったのだ。そう考えるせいだとウィンは思う。フォースに殺されることがなければ、今この世界で幸せに暮らしていたかもしれない。それを。
「どうしたんですか?」
 すぐ目の前にケティカが顔を出した。その心配そうな顔に苦笑を返す。敵を討つために、自分を奮い立たせる必要があることが悔しい。
「すげぇ所だと思ってな。これじゃあ、一生かかっても無理だ」
「そんなこと無いですよ。レイクス様は気さくな方ですから、会ってくださるかもしれません」
 会える会えないの話しじゃない、と思いながら、ウィンはただ笑みを返した。
「門番の人に聞いてみましょうよ」
 そう言うと、ケティカは近づいてきた門に向かって走り出した。その背を追いかけることはせず、ウィンは自分の速度で歩み続ける。
 攻め込むことが不可能なら、できることは一つだ。隠し持っている短剣で、フォースの胸を一突きすればそれでいい。そう思い、短剣を服の上から確かめてから、ケティカの声のする門をのぞいた。
「リディア様の所にいらっしゃるなら、今日はお会いできないですね」
 ケティカの盛大なため息が聞こえた。
「一応何でも話しを通せと言われてはいるんだけど、それをやっちゃうとレイクス様の身が保たないからね。側近と結託して、必要なこと以外は避けてもらうようにしてるんだ。ゴメンね?」
 向き合っている兵士が、ケティカを慰めるように優しい声を出す。ウィンはその顔に見覚えがあった。どこで会ったのだろうと記憶をたどる。ふと、その兵士がウィンに視線を向けた。
「ウィン!」
「ああっ?!」
 兵士とウィンの声が重なった。
「てめぇ、あの時の!」
 正面から顔を見て、ウィンの記憶が蘇った。城都の城でフォースがリディアを護衛していた時、フォースに付き従うように一緒にいた兵士だ。メナウルの兵士がルジェナにいるということは、鴨の雛のごとく、フォースにちょこちょこと付いてきたのだろう。
「鴨の雛か、てめぇは!」
「なんとでも言えっ」
 その兵士は吐き捨てるように言ったが、顔は笑っている。

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