レイシャルメモリー後刻
第11話 煮ても焼いても鴨の雛 9
「俺はブラッドって言うんだ。便宜上覚えておけよ」
「ってことは、何か特典があるんだな?」
期待をせずに聞いたウィンに、ブラッドが笑みを向けてきた。
「会うか?」
事も無げに言ったブラッドの顔を、ウィンは呆気にとられて見つめた。構わずにブラッドは先を口にする。
「話しを通すぞ? ウィンのことは気にかけていらしたから、リディア様が今特にお悪いのでなければ、会っていただけると思うが」
ウィンの袖がツンツンと引かれた。振り返るとケティカが腕を取り、不安げな顔をブラッドに向けていた。
「リディア様がお悪いって、ご病気なのですか?」
「あ、いえ、そんなにたちが悪いモノでは……」
慌てたブラッドが、苦笑を浮かべている。ウィンは納得して口を開いた。
「ああ、もうできたのか。手が遅いんだか早いんだか、分からん奴だな」
ブラッドは、その言葉にブハッと吹き出すと、盛大に笑い出した。ケティカは訳が分からずキョトンとしている。
「子供ができたんだそうだ」
ウィンがそう伝えると、ケティカは目を丸くした。
「本当ですか?! だったらお祝いしなくちゃ!」
踊り出しそうな勢いのケティカに、ブラッドは笑いをこらえつつ首を振ってみせる。
「いや、申し訳ないが内密に願いたい。知らないと言わなければならないところを笑ってしまった」
ブラッドは、まだノドの奥でクックと笑い声を漏らしている。それにしても、どうしてブラッドは自分に敵意を示さないのかと、ウィンは不思議に思った。だが本当に敵意がないのなら、城を案内させることも可能かもしれない。ウィンはふざけているように薄い笑みを浮かべ、顔をブラッドに寄せた。
「秘密にしてやるよ。会わなくてもいい。そのかわり、見せてくれないか? 城の中」
ウィンの提案をキョトンと見つめたあと、ブラッドは笑みを浮かべた。
「お安いご用だ」
本当に承諾の返事が返ってきて、ウィンは一瞬呆気にとられたが、すぐに笑みを取り繕った。バレなかったかと焦る間もなく、ケティカがキャアキャア騒ぎ出す。
「凄い、見せていただけるんですか?! 嬉しい!」
一緒に行くとは言ってない。だがその行動は、見せてやりたかったから言ってみたという口実にもなる。
「ウィンさん、ありがとうございます!」
ちょうどよく言われたお礼の言葉に、ウィンは満面の笑みで答えた。
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