レイシャルメモリー後刻
第11話 煮ても焼いても鴨の雛 10


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 最初から大きく作ることを前提にされていたのだろう、ルジェナ城は単純な作りをしていた。地下は使用人の空間。一階にはフォースやリディアの寝室を含め、王族の個人的な空間が多くとられている。二階は客間や謁見の間などの訪れる者のための場所が多く、三階、四階には様々な大きさの広間や、それに関連する控えの間などの部屋が配置されていた。
 王族の部屋が一階にあるのは、ここまで攻めることは不可能だとの自信だろうかとウィンは思う。だが、軍隊ではなく刺客が来たら危険だろう。なぜこんな配置になっているのか疑問だが、少しでも目的を悟られないために、それをブラッドに聞くことはできなかった。
「階段、疲れます」
 ケティカは息切れの混じった声で訴えてくる。この上は屋上になっているはずだ。そこから見れば、まわりの状態が一目で分かるだろう。
「もうすぐですよ。景色を見たら疲れなんて吹っ飛びます。よかったら、引っ張りましょうか」
 ブラッドはケティカに手を差し出した。いいんですか、とその手を取ったケティカを引っ張って上っていく。楽ですとか、ありがとうとか言うだろうと思ったが、ケティカは黙ったまま手を引かれていった。
「凄い!」
 外に出たケティカの大きな声を聞きながら、ウィンも屋上に立った。
「これは……」
 城を囲んだ四重の城壁のうち二つが、湖の真ん中にある島に建っている。城の前面、陸近くに浮かぶいくつかの小島を繋げた所に次の城壁が見え、その向こうは、城に入るときに通ってきた橋と川がある。
 攻め入る策を立てられないまま、ウィンは湖を見つつ後方に移動した。外側から二番目の城壁は城側面で無くなったが、湖を囲むように建っている一番外の城壁が、途中から湖の水をさえぎるように、水中からそそり立っている。
 後ろ側に門はない。城壁を壊して入ったとしても、湖が広がっている上に内側二つの城壁は高い。後ろ側からの侵入は無理そうだ。あまりの手の無さに、ウィンはハッと息で笑った。
「一体どうやって建てたんだ……」
 そのつぶやきを聞いていたのか、ブラッドが得意げに笑みを浮かべる。
「城を建てた後に水を引き込んだそうだ。当然深度も結構とってある。おかげで警備は楽だぞ」
 これでは奇襲をかけたとしても、肝心の城にたどり着くまでに時間がかかってしまう。しかもラジェス、下手をしたらメナウルからも援軍が到着してしまい、完全に挟まれることになるだろう。そうならないだけの大きな軍など、個人で作れるわけがない。やはり自分でやるしかないのだ。そう思いながらウィンは深く息を吸い込んだ。
「そういえば、ゴートで死んだ諜報員、ウィンの仲間だよな」
 その言葉に振り返ると、ブラッドは眉を寄せて階段を見下ろしていた。

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