レイシャルメモリー後刻
第11話 煮ても焼いても鴨の雛 11
「そうだが」
復讐を考えていることを悟られたかと勘ぐり、硬い声が出た。
「ウィンさんって諜報員だったんですか?!」
ケティカが目を丸くして大声を出す。
「いいからお前はあっちに行ってろ」
「ええー?」
不満げな声を出したケティカに、ウィンは睨みをきかせて屋上の隅っこを指差した。ケティカは渋々その角へと歩いていく。ウィンは、黙って下の方を見ているケティカから、視線をブラッドに戻した。
「話しはなんだ」
「いや、あれが切っ掛けで雛になったようなモノだからな」
思いも寄らぬ言葉に、ウィンの身体に緊張が走る。
「……、どういうことだ?」
その問いに、ブラッドは小さく息をついてから、ウィンと視線を合わせた。
「隊長とリディアさんと三人でミューアの屋敷を調査していた時、隠れていたそいつが襲ってきて、隊長が剣を合わせたんだ。まぁ余裕で強かったから、俺はリディアさんに何か無いようにと見ていただけだったんだが」
そこまで言うと、ブラッドは視線を落とした。
「そいつ、逃げようとして体勢を崩して、剣と一緒に頭から階段を落ちたんだ。隊長は手すりを滑っていって身体で止めたんだが、」
「ちょっ、ちょっと待て」
ウィンが止めると、ブラッドは訝しげに視線を上げた。
「今、……、体勢を崩してって言ったか?」
「そうだけど」
でも、それではおかしいとウィンは思った。フォースは自分が殺したと言ったのだ。それは何度も聞いている。
「フォースが突き落としたんじゃないのか?」
ブラッドは、軽く首を横に振る。
「いや、それはない。隊長とそいつの間に少し距離があったから見えたんだが、あいつ、肘を手すりにぶつけて、背中から階段に落ちたんだ。そのまま剣と一緒に転がった。首の血管が切れていてひどい出血で……。間違いなく事故だ」
事故という言葉が、ウィンの頭で鳴り響いた。しかもブラッドは、フォースが身体で止めたとも言っていた。
「そいつ、抱き起こされて、最後に笑いながら、クロフォード陛下、って言いながら隊長に手を伸ばしたんだ。今思うと、やっぱり似ていたからなんだろうな」
フォースのその顔なら知っていると、ウィンは思った。ヴァレスからライザナルへの道中、ダールを羨ましいと言った時の顔だ。あの時、悲しげに目を伏せたフォースの表情が、クロフォードのそれと重なった。
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