レイシャルメモリー後刻
第11話 煮ても焼いても鴨の雛 12


「ダールを羨ましいと……」
「隊長が? ああ、リディアさんがあいつにシャイア神の祈りを捧げていたからかな。戦場で死ねば、叶わないわけだし」
 殺したと言ったのは、救えなかったという意味だったのだろうか。その言葉の響きには、嘘は見えなかった。見破れなかったというのか。
「その事故が起こった時は、まだリディアさんがどうして狙われているか分からなかったんだけど。リディアさんが、あいつが死んだのは自分のせいだって言ったら、なにバカ言ってる、俺が殺したんだ、って」
 そこまで言うと、ブラッドは控えめに笑った。
「その上、あいつの残したほんの少しの言葉から、お前らの目的とかキッチリ導き出してな。そうか、守るってのはこうやるんだって、えらい感動したんだ」
 すべてが、自分の勘違いからきたことだったのだろうかと、ウィンはハッと息で笑った。
「結局は巫女に惚れてたからじゃないか」
「まぁ、リディアさんにはな。でも、ウィンだって守られてたじゃないか。隊長から直接聞いてたんだろ? あいつを殺したのは俺だ、って」
 それはウィル自身が一番認めたくないことだった。だが、認めたくないと考えるのは、事実だからだ。自分が何をしてでもと生きてきたのは、その言葉があったからなのだ。
 そう、反目の岩で不要だと言ったアルトスが自分を斬ろうとし、図らずもフォースに守られてしまった時も。敵を討つまでは死ねないと、それだけが糧になっていた。
「くっ、くそったれっ、もうどうにでもしやがれ!」
 ウィンは隠し持っていた短剣を取り出し、ブラッドに押しつけるとその場に寝ころんだ。驚いたケティカが駆け寄ってきた。
「ウィンさんっ?! 何やってるんですか、起きてくださいよぉ」
「そうだよ、起きろよ」
 ブラッドが一緒になって声をかけてくる。
「バカやろっ、俺はフォースを殺そうと思ってここに来たんだぞ?! そんな罪人を放っておいていいのか!」
 叫んでいるうちに、ウィンは自分にもフォースにも腹が立ってきた。もう、本当にどうでもいい。フォースの思い通りになんぞなってやるものか。暇つぶしの相手もしない。絶対するものか。
 ブラッドがため息をつき、短剣を右手に持った。
「えええ?! 兵士さん、何するんですか、待って!」
「どいてろ」
 ブラッドがケティカを押しのけて、すぐ脇に立った。そのブラッドを見て、ウィンはガッチリと目を閉じる。
「さぁ、殺せ! 殺しやがれ!!」
 そう叫んだ胸に、短剣が鞘ごと降ってきた。軽い衝撃に息が詰まり、一瞬何もしゃべれなくなる。
「へ、兵士さん……」
 ケティカは、腰が抜けたように隣に座り込む。
「て、てめぇ!」
 上半身を起こしたウィンに苦笑して、ブラッドは頭をかいた。
「本気で暗殺を考えていたなら、そりゃ殺してもいいんだろうけど」

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