レイシャルメモリー後刻
第11話 煮ても焼いても鴨の雛 13


「俺は本気だ! なんだったらこれから行って殺してやる!」
「ウィン、知らなかったんだな」
 まだ何かあるのかと思いながら、ウィンは精一杯の声を出す。
「何をだっ」
「いや、ルジェナ城には、敵意を持つ人間が入れないように、術がかかってるんだ」
 ウィンの頭の中が、一瞬で真っ白になった。
「はぁっ?! な、な……」
「だから、ウィンはここに来た最初から、隊長に対する敵意は持っていなかったってことだ」
 敵意はいくらかでも持っていたはずだった。だが、奮い立たせるなどという行為が必要だったということは、すでにその気力は残っていなかったのかもしれないと思う。自分はただ、フォースの真意が知りたかったのだろうか。そして、それ以上にダールのことを知ってしまった今は。
「そろそろ素直になった方がいいと思うぞ」
「なんだって?」
「俺にはウィンも鴨の雛に見えるんだけど」
 思わず呆気にとられた。ケティカがクスクスと笑っている。笑いをこらえているブラッドの顔にムカッときた。
「ケティカ、帰るぞっ」
「ええー? もうですか?」
 階段まで歩を進め、ブラッドを振り返る。
「謀反を起こしたくなったら、いつでも城に来い。快く迎えてやる」
 ウィンの言葉にブラッドは、頼むよ、と手を振ってよこした。付いてこないところを見ると、敵意を持つ人間が入れないという術は、本当にかかっているのだ。その点が不安なら、絶対付いてくるだろう。
 階段を一階まで下り、入ってきた出入り口へと向かう。途中で数人の兵士とすれ違ったが、彼らは皆、明るく敬礼をしながら通り過ぎた。
 城に入ってきた時は、自分が何をするべきか掴めていなかった。軍を組織するべきか、個人で暗殺を企てるか。もしかしたらそのどちらも、実行に至らない、ただの迷いだったのかもしれない。
 そして、ダールは事故死だったという事実を理解してしまった今、反目の岩へ向かう途中に持った疑問も、破綻することなくすべて解決したことになる。しかもフォースが事故死だったモノを殺したと答えることで、巫女と同じように自分までを救っていたことも認めてしまった。
「あの城を拠点にレイクス様の敵を集めて、反乱を起こすつもりなのですか?」
 ケティカがボソッと小さな声で聞いてきた。自分がどうしたいのか、それはすでにウィンの目には見えていた。
「どうするかな。まぁ、謀反を起こしそうな奴は集めるんだが」
 心配げに眉を寄せたケティカが、ポンと手を叩く。

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