レイシャルメモリー後刻
第9話 気力能力適材適所 4


「いろんな道具を置いている倉庫の方へ、ノルドと手を繋いで行かれました」
「ええ。オルニに馬を一頭引かせて」
 馬を必要とするということは、リディアを連れて逃げるつもりなのだろうか。だが一頭で三人は無理だし、二人で乗るにしても一緒に乗る人間の協力がないと無謀だ。リディアが協力するなんて有り得ない。
 だが、女性の言葉にイライラする。手を繋いで歩くほど、ノルドは子供じゃないだろう。しかも、馬を一頭引かせて、という言い回しも気になった。馬を引いてくるように言ったのはリディアなのだろうか。だったら本気でオルニに付いていくつもりでいるのかもしれない?
「どうかなさいましたか?」
「い、いや、なんでもない。ありがとう」
 いつの間にかのぞき込んでいた二つの顔に笑みを向け、俺は倉庫の方へと駆けだした。
 リディアが黙って出て行こうだなど、あるはずがない。城外に出る手は結構あるのだが、湖の真ん中に建っているような城なので、目に付かない出入りは難しい。もし連れ出そうとされたとしても、見張りに少しでも引き留められたら追いつけるだろう。
 城の扉の側、道の脇に植えた低木の陰で何かが動いた。素知らぬ振りで通り過ぎてから振り返ると、ノルドと目が合った。ノルドはしまったとばかりに口を手で覆っている。
「そこで何をしている。リディアをどこにやった?」
「レ、レイクス様、顔色が悪いよ?」
 リディアの名を口にしたとたん、ノルドの顔からサッと血の気が引いた気がした。
「お前もだ。何か知っているんだろう」
「ご、ごめんなさい……」
「は? なんで謝る? ごめんなさいってのは、やっぱり何か企んでいるからかっ」
 詰め寄ろうとすると、ノルドは両方の手のひらをこっちに向けて後退りする。
「もしかして、リディア様の心配してる?」
「当たり前だろ!」
「じゃ、じゃあ、大事にしろよ」
 なんだかノルドは胸を張って目一杯虚勢を張っているが、俺が怖いのか声が震えている。
「何言ってる。俺がリディアを大事にしていないように見えるのか?」
「だって初めて会った時、すげぇ怖い顔で引っ張っていったじゃないか」
「そりゃあの時はケンカしてたし、お前に嫉妬してい、」
 慌てて口を押さえたが、しっかり聞こえてしまったらしい。ノルドは目を丸くして俺を見ている。
「嫉妬? って、俺に?」
「そ、そんなことはどうでもいい、お前の兄貴はどこに行った。リディアといるんだろう? 教えろ!」
「そ、倉庫に。って、あ」
 言うつもりはなかったのか、ノルドは口をつぐんだ。だが、女性達の言っていた方向とも一致するので、多分間違いない。
「行くぞ!」

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