レイシャルメモリー後刻
第9話 気力能力適材適所 6


「それに、酷く地位が高いのも大変なのでしょうね。彼女は縛り付けられたくないようですよ」
 リディアは、そんなこと充分に分かっていて一緒にいてくれている。オルニの言葉は、体裁を整えるための戯れ言としか思えなかった。
「リディアはどこにいる? 隠したのか?」
「とんでもない。まぁ、待ち合わせしていますけどね。用事を済ませたら俺の元に戻ってくださることになっています」
 待ち合わせ? オルニの元に戻る? これも嘘だと思う。でも今度は根拠が浮かばない。顔をしかめた俺に、オルニは冷ややかな笑みを浮かべた。
「突然のことで驚かれたでしょう。少し頭を冷やされた方がいい。リディア様を呼んでまいりますよ」
「いや、一緒に行く」
 ムッとした顔をして俺の横を通り、オルニは扉に向かいながらため息をついた。
「仕方がないなぁ。では、彼女の気持ちを優先してくださいね?」
「当然だ」
「では、案内します」
 オルニは、そう言って手を掛けた扉を、急いで閉めた。駆け寄った時には鍵が下ろされた音が響く。
「くそったれ、ここを開けろ!」
「やなこった!」
「開けやがれ!」
 扉を拳で叩いて声を掛けたが、今度は返事がない。いざとなったらこんな扉は蹴り飛ばしてやると思いながら扉に耳を寄せると、蹄の音と同時に小声のやりとりが聞こえてきた。
「兄ちゃん、いいの? 怒られるよ?」
 やっとたどり着いたのだろう、幾分疲れたようなノルドの声がする。
「そんなことを言っていられないだろ。リディアさんを救い出さなきゃならないんだから」
「はぁ? 何が救い出すだ!」
 思わず叫んで後悔する。思った通り、オルニの勝ち誇った笑い声が響いた。
「まぁ、俺とリディアさんが城外に出るまでそこにいろよ。ノルド、行くぞ!」
「あ、兄ちゃん、待って!」
 二人分の足音が遠ざかっていく。
「くそ、開けろって言ってる!」
 焦れた俺は一歩離れ、扉の鍵のある辺りをめがけて思い切り蹴りを入れた。木製の扉は鍵などちぎれてしまったのだろう、簡単に勢いよく開き、壁の向こう側へとぶつかった。その音に振り返った二人が目を丸くしている。
「乗れ! 早くしないと殺されるぞ!」
 オルニはノルドを馬に押し上げると、自らも騎乗する。俺が追いつく前に動き出したが、人の駆け足と同じくらいの早さしか出ていない。
「待て、止まれ!」
「できるかっ、おととい来やがれ!」
 言葉の割に、馬の速度は上がらない。ろくに乗れもしないのに馬を使おうだなどと、なぜ考えたのか。

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