レイシャルメモリー後刻
第9話 気力能力適材適所 7


 それにしても、このままだとこっちの体力が保たない。他に手は無いかと考えを巡らせ、イージスが城を閉鎖してくれていることを思い出して足を止める。
「ざまあ見ろ! これでリディアさんは俺のモノだ!」
 追ってこないことに気付いたのか、そう叫んだオルニが遠ざかっていった。
 城が閉鎖されていたとしても、まだできることはありそうだ。何も知らないと思ってか散々バカにした態度から、この城を出ようとするなら一番目立たない出入り口を使うだろうと推測できる。ここからなら逆方向だから、裏をかいたつもりでいるのかもしれない。
 オルニは馬でもあの速度だ。少し急げば先につけるだろうと、俺はその出入り口を目指した。
 はたして、馬の一頭足りない馬車が見えてきた。やはりここから出るつもりだったのだろう。その側にはイージスと兵士が五人いて、こっちに気付くと一斉に敬礼をした。
「リディア様は外にいらっしゃらないようで、現在は城内を探しています。城は閉鎖済みです」
「閉鎖しなくても、あのバカが使うとしたらここだろう」
 イージスにそう返しながら、この間抜けな計画が罠だったらマズいと思い直す。
「こっち側にいてくれ」
 多分俺が来た方角の反対側から来ることになるだろうと、俺は一人で馬車の反対側に回った。
 まずは落ち着こうと大きく深呼吸をして、馬車に背を預ける。すぐに、本当にオルニとノルドの乗った馬が見えてきた。
「何であんたがここに!」
 オルニは側まで来て馬を止めた。
「お前の行動から、察しくらいつく」
 俺の言葉に目を丸くしてから、オルニは慌ててまわりを見回す。
「リディアさんが来ていない? なんで?」
「来るか、バカ」
「そうか! 俺からリディアさんを隠したんだな?」
「あれからまだ会っていない。隠しようがない」
 オルニが知らないところを見ると、リディアはまだ城のどこかにいるのだ。捜索が行われているのに、見つからない場所に。
「そんなわけがないだろう。来てくださるって言ったんだ、あんたが隠したに決まってる!」
「お前相手に隠す必要も、あ」
 そうか、そういうことだ。今のオルニの言葉で、リディアがどこにいるか分かった気がした。
「ほら見ろ、あんたが隠したん、!」
「オルニ! どなたに向かってあんたなどという口の利き方を!」
 我慢できなくなったのか、イージスが兵を連れてこちら側に回ってきた。兵士三人が馬を囲み、他の二人がオルニを引きずり下ろす。ノルドは一人で馬にしがみつきながら下りてきた。

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