レイシャルメモリー後刻
第9話 気力能力適材適所 8
「なんてことだ、リディア様を自由にして差し上げられなかったなんて!」
イージスは、ほとんど叫ぶように言ったオルニの前に立ち、顔を突き合わせる。
「リディア様はいつでもご自由であらせられる。一体どうすれば、そのような誤解が生まれるんです」
ふと目の端に、ノルドが俺を指差したのが見えた。それに気付いたイージスが、俺に視線を向けてくる。
「え、いや。もしかしたらそうかもしれないけど」
「はぁ?」
素っ頓狂な声を出したイージスに、俺は、ゴメン、と謝った。
「ノルドにケンカしているところを見られたことがあって、たぶんそれで……」
「ケンカ、ですか」
イージスは緊張が解けたように、ハァとため息をつく。
「誤解は今すぐ解くよ」
そう言うと、ノルドが疑わしげな目で見上げてきた。
「そんなこと、できるの?」
「ああ。一緒に来て欲しい。オルニもだ」
城へ向かって歩き出す。ノルドとイージス、兵士二人に両脇を固められたオルニも付いてきた。
向かう先は自分の寝室だ。そこなら自分の側近以外の人間が入ることはない。リディアの寝室とは奥で繋がっているが、リディアを捜索し始めたのは外に出ている間だったのだから、わずかな隙に入れ違いになったのだと考えられる。イージスも途中で気付いたのだろう、納得したような顔をしていた。
寝室のドアの前で足を止め、ノルドやイージスが後ろにいるのを確かめるために振り返った。オルニが不審げに眉を寄せる。
「ここは」
「俺の寝室だ」
リディアがいそうな所は、もうここしか残されていない。どうか居てくれと祈りながらドアを開けた。部屋はガランとしていて人影は見えない。だが、整えられているはずの寝具にふくらみが見えている。
ドアを開け放ったままで静かに自分のベッドへと近づくと、フワッと沈み込んだ枕の端にリディアの頭が見えた。
ホッとして体中の息を吐きだし、ドアを振り返る。その表情で分かったのだろう、イージスの肩から力が抜けたのが分かった。
リディアのすぐ側まで行き、顔にかかっていた寝具をどける。
「リディア」
耳元に口を寄せて、その名を呼んだ。リディアは、んん、と声に出して息を漏らし、身体を少しだけ動かす。
「リディア、起きて」
「ん……、フォース?」
リディアの腕が伸びてきて、俺の首に絡みつく。引き寄せられるままに口づけた。
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