レイシャルメモリー後刻
第9話 気力能力適材適所 9


「フォースだって?」
 オルニの驚いた声に目を見開き、リディアは顔を隠すように俺に抱きついた。ノルドがオルニの袖を引っ張り、知らなかったの? などと聞いている。
「ドア、開けてたのね」
「ああ。みんなでリディアを探してたんだよ。無事でよかった」
 そう伝えるとリディアは腕をゆるめ、俺と顔を突き合わせた。
「あ。連絡しないうちに寝てしまって……」
「連絡?」
 横に座って聞き返した俺に、リディアは半身を起こし、ええ、とうなずいた。
「最初はノルド君を探していたの。見つかったらオルニさんと三人で、鳥を見に行くって話になって」
 なんだそれは。やはりリディアを騙して連れ出そうという魂胆だったのか。俺はオルニに視線を移した。
「へぇ、鳥をね」
「誘われたのだけど、やっぱり具合が悪くて。その場では言い出せない雰囲気だったから、誰かに断りに行ってもらおうと思ったのだけど。ごめんなさい、私、寝ちゃったんだわ」
「そんなのかまわないよ。なぁ、そうだろ?」
 俺はオルニに問いを向けた。口を開けたままボーッと見ているオルニに冷笑してみせる。「罪人にならずに済んだんだし」
 オルニはヒッと息を吸い込んだ。
「と、とんでもないっ。って、え?」
「処分なさらなくてよろしいのですか?」
 イージスの不機嫌な視線が、オルニと俺を行き来する。
「いや、そいつの移動の書類が執務室に揃えてあるから、通してくれればそれで問題なしだ。あ、城の出入りも禁止にしておいてくれ」
「御意」
 イージスはにっこり微笑んで敬礼をよこした。自分を陥れようとした男を部下にしておくつもりは、やはり無かったのだろう。
「ってことは、ちょ、ちょっと待て!」
 オルニが慌てた声を出す。
「なんでもう揃ってるんだ? 何もなくても移動だったってのか? そんなの横暴だ!」
「俺にも危機管理能力ってのが備わってたんだな」
 俺がノドの奥で笑っていると、オルニは兵士の手をふりほどきそうな勢いで激高した。
「リディアさん、止めてくださいっ。レイクスの嫉妬で移動させられるだなんて、あんまりです。そんなことになったら、もう二度と会えなくなってしまいます! さぁ、リディアさんっ!」
 その様子をキョトンとした目で見ていたリディアは、俺と目を合わせると温和に微笑み、その笑みをオルニに向けた。
「オルニさん、大丈夫ですよ。夫は適材適所をしっかり見抜ける人ですから、今の職にい続けるよりも、必ず人の役に立てるようになります」
 大丈夫ってのは、そういう意味か。衝撃を受けたオルニの顔を見て、俺は吹き出すのをこらえた。

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