レイシャルメモリー後刻
第4話 目が離せない 3


「怖っ。機嫌悪いのか?」
 後ろからノルドの押さえた声がした。
「わかんない」
 ソーンが不思議そうな声を出す。
「あ。もしかしてリディア様に触ったから?」
 何を言っているんだと毒づきながら、だが実際そうなのだ、なおさら腹が立つ。振り返りかけて、リディアがこっちを見ていることに気付き、慌てて視線を前に戻した。
 城に入ったところで、リディアに繋いでいた手を引っぱられた。振り返ると、伏せていた視線を向けてくる。
「フォース、まさかあの子に妬いたり……」
「気をつけろって言われてる時に、無頓着すぎるだろ」
 そう言うと、リディアは目を丸くした。
「気をつけろって。あの子はまだ十四の子供だわ」
「十四は子供じゃない」
 十四といえば、俺が騎士になった歳だ。目一杯虚勢を張って、なんとか認めてもらおうと必死だった。あの時が子供だったなどと思いたくない。だが、思いたくないということは、思っているということだ。
 だいたいが妬いたとか妬いてないとか、そんな問題じゃない。子供だから危険じゃないなんてことはないはずだ。
「もういい」
 俺は繋いだ手をほどいて、早足で元いた執務室へと向かった。確かに、あの程度ならイージスがいれば大丈夫なのだろう。だが、だったらどうして気をつけろなどという話になるんだ。子供だというのも分かる。でも。
 思考が進まない。タスリルさんの言う通り、やはり俺は頭を冷やさなくてはならないのだろうか。
 部屋の前にはさっきの兵士が立っていた。向けられる敬礼に返礼したくなるのを押さえて部屋に入る。いつも座っている場所にまっすぐ向かい、腰を落ち着けて資料を手にした。落ち着いたのは腰だけで、思考はどこかに飛んでしまっているのだが。
 大きくため息をついて資料に目を落とした時、薄くドアが開いた。隙間から滑り込むように女性が入ってくる。
「あの。レイクス様?」
 ドアを後ろ手で閉めた女性は、ひどく露出度の高い服装で、隠すためか見せるためか透き通ったショールを肩にかけている。五、六歳は上だろうか、化粧が濃く、髪まで派手な金色だ。怪しいことこの上ないが、見たところ刀剣類は持っていない。
「君は」
「踊り子をしています」
「そうじゃなくて。ここになにか用か?」
 その女性は、まるで踊りの振り付けのように足を踏み出し、口に手を当ててクスッと笑った。
「なんだと思います?」

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