レイシャルメモリー後刻
第4話 目が離せない 4


 踊り子と言うだけあって、視線を俺から一瞬外しただけで、その女性は歩きながら器用に一回転した。透き通ったショールがフワッと床に落ちたのを、呆然と見つめる。
 その女性はクスッと笑い、机の向こう側に立った。その手で自ら服のボタンを外し始める。
「え? 俺は薬師じゃない、タスリルさんなら奥の部屋に」
 目が怖いんだけど、この女。胸をさらけ出し、服を足元に落とすと、机を回り込んでくる。
「は? ちょっと待て、違うって」
 思わず立ち上がり、俺は机の反対側に逃げ込んだ。
「入ります」
 リディアの声がしてドアが開いた。リディアの視線が女性の裸になった胸元に向く。
「お、奥様?!」
 その女性は慌てて胸を手で隠した。
「レイクス様と情を通じたこと、お許しください!」
「はぁ?」
 何を言い出すのかと女を見やると、非難するような視線を向けてくる。
「奥様の前だからって、とぼけるなんてひどいっ」
 そう言うと、女は目まで潤ませている。もしかして、ってか、もしかしなくても裸で気を惹くつもりだったのか? あっけにとられ、ポカンと口を開けたまま見ていると、奥のドアからタスリルさんが出てきた。またヒヒヒと笑いながら部屋を横切る。
「そこまで言われないと気付かないなんて、心配するまでもなかったかね」
 タスリルさんは笑いを抑えようともせず、相変わらず変な声で笑いながら部屋を出て行った。心配するまでもなかったって、もしかしたらリディアのことではなく……。
「リディア?」
 呼びかけてみたが、リディアはこっちを見ずに女の側に行った。
「ほんの少し前、あなたがここに入ったのを見ていました」
 温和な顔で言ったリディアに、踊り子は企みがバレたとばかりに肩をすくめ、舌を出す。
「どういった情が通じたと思われたのか分かりませんが、夫は簡単に誘惑されるような人ではありません」
「ど、どういった情って、あんた……」
 女は呆けた顔でリディアを見ている。いや、それは俺も突っ込みたいけど。
「服を着て、ここを出てください」
 リディアは、女が脱ぎ落とした服をひろうと、後ろからかけてやっている。
「リディア」
「この人を通した兵士は、イージスさんにしぼられてるわ」
 二度目の呼びかけに返事は帰ってきたが、リディアはまだこっちを見ようとしない。
 タスリルさんが気をつけろと言ったのは、俺の浮気心だったのだろう。俺は半端に聞いて、リディアが危険なのだと勘違いをしたのだ。

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