レイシャルメモリー後刻
第4話 目が離せない 5
俺が言った気をつけなくてはという言葉は、俺の浮気に気をつけろという意味に取れてしまう。リディアが怒っても当然だ。
ショールを拾いに行ったリディアに近づき、後ろから抱きしめる。
「ゴメン、勘違いしてた」
リディアが瞳だけで振り返った。
「俺のことなら気をつけなくても大丈夫、リディア以外の人に惹かれたりしない。本当だ」
「それは今、分かったわ。でも……」
俺を信じてくれるなら、でもってのは、いったい。
「……、見たでしょう」
ブッと吹き出した踊り子に、思わず目をやる。
「俺が何を見……」
視線の先で、慌てて胸を隠した踊り子の仕草で、それが何だったのかに思い当たった。
「そ、それは不可抗力だっ」
俺はリディアの肩をつかんで向き合わせ、その瞳を見つめる。
「見ようと思って見たわけじゃ」
「でも。比べられたら嫌だもの」
眉を寄せて見上げてくるリディアに、俺は短く息をついた。
「比べようにも、俺にはリディアだけだ」
ほんの少し笑みが浮かんだ気がしたが、リディアはまたうつむいてしまう。こうなったら、リディアがどれだけ綺麗か納得してもらうほかにない。
「分かった。ちゃんと見たこと無いんだろ。見に行こう」
「何を?」
「何をって、決まってるだろ。きちんと見れば、すごく綺麗だって分かるから」
キョトンとしていた視線が、自分の胸をとらえて戻ってきた。
「ええ?! だ、だって、まだこんなに明るいのに」
「明るくなきゃ、しっかり見えないだろ」
顔を赤くして逃げ腰なリディアを捕まえて、逃げられないように抱き上げ、ドアの所まで歩を進める。
「でも私、いつも見てるから……」
「却下。凄く綺麗だってことを知らないくらいしか見てない」
そう返すと、リディアは困惑して視線を泳がせている。
「ねぇフォース、降ろして」
「比べられるなんて気にしているうちは駄目」
俺はリディアに笑みを向け、ドアを見やった。
「開けてくれ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
後ろの女が叫んだが、当然無視されてドアが開けられた。とたん、まるで襲われでもしたような女の叫び声が部屋に響く。その声に、兵士が部屋の中を見て目を丸くした。
「うわっ、脱いじゃった?!」
その兵士に呆れるような目を向けてから、イージスが部屋の女に視線を移す。
「バカっ、見ないでよっ、ただの兵士のくせに!」
俺に見せることで利益を得ようとしていたのかと思うと、腹が立ってくる。
「服着せて追い出せ」
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