レイシャルメモリー後刻
第2話 起きて見た夢 5


 ランプは一つだけ灯が細く灯っていた。その明かりに映し出されたリディアの呼吸が乱れていて、ひどく早い。うなされる声も聞こえてくる。
「リディア? どうした? リディア?」
 駆け寄ってベッドに腰掛け、名を呼びながら抱き起こすと、うっすらと瞳が開かれて視線がさまよった。リディアはそれから俺をしっかり見つめてくる。
「フォース……」
 リディアは、夢の続きからようやく抜け出せたようにため息をつき、俺に寄り添ってきた。リディアの身体に腕を回すと、怯えているのか震えが伝わってくる。
「夢を見てたの」
「夢?」
 俺が聞き返すと、リディアはゆっくり、大きくうなずいた。
「とてもリアルだった。怖くて、痛くて、悲しくて……」
「痛い?」
「変よね。でも、まだ身体に余韻が残っていて」
 自分の身体を抱くように両腕を回し、眉を寄せて俺を見上げた瞳から、大粒の涙が溢れ出て、リディアは慌てたようにうつむいた。
「やだ、引き摺ってる……」
 俺はリディアの髪にキスをして、そっと抱き寄せた。
 カチッと鍵の開く金属音がして、立てかけてあった短剣が倒れる音と共にドアが動いた。鞘の部分がドアストッパーのように引っかかる。リディアが小さく息を飲んだような悲鳴を上げた。鞘を外すようにドアが揺らされ、今度は大きく開かれる。手にしたランプの明かりに浮かび上がった顔には、まったく見覚えがない。
「何か?」
 俺は男の顔を確認してから立ち上がり、声をかけた。その男は顔を上げ、剣に手をかけた俺を見つけてうろたえている。
「も、申し訳ありません。まさかこの部屋を使われているとは思わず。失礼をいたしました」
 深々と頭を下げると、その男は慌てて部屋を出て行った。
 鍵はもう一本あったのだ。その存在を城主は知らなかったのだろうか。城主の奥方が使っていた城なら、知らなくても不思議はないとも思う。
 それでも。今の男はリディアの立てた声が聞こえなかったのか、聞こえていて、それでも入ってきたのか。単純に間違いならいいのだが、そうでない可能性も捨てきれない。鍵はまだこの部屋の外にもあるのだ。とりあえず、用心だけはしなければと思う。
 俺は元のようにドアに鍵をかけて短剣を立て掛け、リディアの元に戻った。見上げてくるリディアの顔色が、悪くなっている気がする。俺はベッドに座ってリディアを抱き寄せた。前よりもリディアの震えが大きい。
「大丈夫か?」
「今の人、夢の中で山賊だったの」
「え?」
 思わぬ言葉に聞き返すと、リディアは不安げに見上げてきた。
「見たことがある人なら、夢に出てきても驚かないのだけど、まったく知らない人だったから……」

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