レイシャルメモリー後刻
第2話 起きて見た夢 6


 確かに、嫌な印象を持っていたから山賊として夢に出てくるならありえる話だ。だが、リディアが見たという夢はそれとは違う。いわゆる既視体験だ。
「どんな夢だったんだ?」
 話してしまった方が、きっと落ち着けるだろう、そう思って俺はたずねた。
 リディアは少しの間、胸に両手を抱えるようにして黙っていた。それからゆっくり口を開く。
「ここで眠っていたら、男が二人入ってきて乱暴されたの。隣の部屋に寝ているはずの恋人を呼ぶんだけど、返事が無くて。そのうちに返り血を浴びたような血だらけの男が三人増えて、その人たちにも……」
「い、痛いって」
 思わず口を出した俺に、リディアは微苦笑を向けてくる。
「大丈夫よ、夢だったんだもの」
 リディアは、そうは言ったが、笑みもすぐに強張り、表情がひどく硬い。
「でも、どんな風にされたか、全部覚えていて……」
 こんな話を聞いたら、なんだか俺の方が落ち着けない。抱き寄せる腕に力を込めると、リディアは俺に抱きつくように、身体を預けてくる。
「隣に続くドアから、執事が恋人を引き摺ってきて、よく寝ているだろう、睡眠薬をたっぷり飲んだからね、って言いながら、手にしていた短剣で刺し殺してしまうの」
「執事って、この城の?」
 リディアはコクンとうなずいた。
「それからその執事に、新しい城主様だ、って、今まで使用人をしていた男を紹介されて」
「それが……」
「ええ。今の城主だったわ」
 そりゃあ確かに気味が悪い夢だ。リディアは気を落ち着かせるためか大きく息をつくと、話の続きをはじめる。
「城においておくと危険だからって、昨日見えていた崖の上の隠れ家みたいな洞窟に連れて行かれて。逃げようとした時に自分で持っていた短剣で刺されて崖から落ちてしまうの。崖下で、胸に刺さっている短剣を抜きたくても抜けなくて。恋人が、私の城が。七人の山賊たちを、って頭の中でグルグルしてて、とても悲しくて寂しくて……」
 何も言えなくなり、話が終わるまで、つい聞き入ってしまった。リディアがため息のようについた息が震えている。俺はしっかりとリディアを抱きしめて、髪を撫でた。
「夢だったんだろ?」
「ええ。でも、場所がここなの。目を閉じたら、全部私のことみたいに思い出せてしまって」
「でも、夢だ」
 リディアは自分で納得したいのだろう、俺の胸に顔を埋めたまま、何度もうなずいた。
 確かに、殺されたのが城主の言っていた奥方だとしたら、無視できないくらい現実に当てはまる。だが既視体験らしいのは、さっき入ってきた使用人の顔だけだ。夢をそのまま事実と混同するのは、あまりにも安直すぎる。
「場所を変えよう。ここよりは隣の方が、まだマシだろう?」

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