レイシャルメモリー後刻
第2話 起きて見た夢 7


 リディアは、俺を見上げてしっかりと首を縦に振った。俺は、歩ける、と苦笑するリディアを抱き上げて隣の部屋へ運び、ベッドに降ろした。
「少し休んだ方がいい。起きて側にいるよ」
「でも、フォースは? 疲れてない?」
 ベッドに座った俺を心配げに見上げてくるリディアに微笑んで見せ、少し青ざめた唇にキスを落とす。
「全然平気だよ」
「ありがとう」
 リディアは、俺の手を引き寄せて指を絡ませると、微笑んで瞳を閉じた。

  ***

 結局そのまま何事もなく朝を迎えた。リディアもやはり緊張していたのか、朝日が差していくらも経たないうちに目を覚ました。リディアの見た夢が、リディアだけではなく、まだ俺の感情をも支配している。
 俺が夢から逃れられないのには、二つの理由があった。
 一つは、亡くなった城主の夫である現在の城主の肖像が、一つも見あたらないことだ。いくら一人で使っている城だからとはいえ、自分の大きな肖像だけを飾って夫の肖像を置かないなどと、とても不自然な気がする。夫婦どころか、もしかしたら他人なのではとさえ思う。
 それともう一つ。眠くならなかったのは、夢と同じように睡眠薬でも盛られたのかもしれないからだ。俺の母の種族、神の守護者などと呼ばれる種族は、薬がそのまま薬として働かない。ただの傷薬が傷を治すどころか吐き気をもよおす作用を持っていたり、毒が水と同じだったりする。睡眠薬で覚醒作用が現れても、なんら不思議ではない。
 リディアもそれを理解していて、俺が眠くならなかったと伝えると、一番先にそこに思い当たったようだった。
 薬を盛られていたにしても、俺はそのまま身体に入れている。城の人たちは、薬を飲ませたと疑われているとは思っていないかもしれない。このまま気付かないふりで外まで出られるなら、まずはそれが一番だ。外に出てしまえば、わざわざ城の人間に山賊かと聞かなくても、夢は夢だと確かめる方法はいくらでもある。
 俺はリディアと城を出る準備を整えて廊下に出た。広間の方へ行くと執事が横切るのが目に入り、呼び止める。執事は姿勢をただしてから、深々と頭を下げた。
「おはようございます。昨晩は使用人が大変失礼をいたしました」
 これだけしっかり頭を下げられると、その表情はうかがい知れない。俺は頭を上げるように促した。
「間違いは誰にでもあることですから」
「ありがとうございます。この城を引き継いでまだ時も経っておらず、使用人も不慣れなゆえ、申し訳ございません」
「いえ。そんなことより、泊めていただけて助かりました」
 これだけ言葉を交わして、ようやくいくらか顔を上げた執事は、ホッとしたように表情を緩めている。

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