レイシャルメモリー後刻
第2話 起きて見た夢 8
「朝食を用意しますので、食堂でお待ちください」
「すみません、せっかくですが、仲間がラジェスで待っているのです。すぐにでも発たせていただきたいと」
「そうですか。では、準備をさせていただきます」
執事は、再び頭を下げると、急ぎ廊下へと入っていった。
出発の準備は早かった。といっても、乗ってきた馬を表に連れてくるだけだが。おきまりの挨拶をして礼を述べ、城主、執事、使用人の合わせて三人に見送られながら、その城を後にする。リディアは気付いていないようだったが、もう一人、脇にある小屋の窓から、こちらを伺っている顔が見えた。
「これからどうするの?」
城の門をくぐり、道に出てすぐに、リディアが尋ねてきた。確かに、こんなに後ろ髪を引かれたままラジェスへ向かうのは性に合わない。
「そうだな。見渡せてキレイだろうから、あの崖の上へ行ってみよう。どっちにしても無駄にはならないだろう」
「いいの?」
「それでハッキリするなら、そのほうがいい。ジェイを待たせてしまうけど」
振り返ると、既に城主、執事、使用人の三人はその場を去り、もう一人も窓から消えている。道をどっちへ行ったかなど、見られる心配もない。俺は、昨日の地図にあった崖へと続く方角に、馬を進ませた。
***
崖の上が近づくにつれて、リディアの顔色が冴えなくなった。無理もないと思う。景色は美しかったが、直接夢を見ていない俺でさえ、見て楽しむような気分には全然なれない。
崖を通り抜ける道に少し入って馬を繋ぎ、徒歩で崖の上に出る脇道へと入った。リディアは俺にピッタリ寄り添い、木々でふさがれた周りを見渡している。
少しだけ道が広がった場所に出た。いくらか獣の匂いがする。木の幹を見ると、何かで擦れたような跡があった。馬を繋ぐための場所だろうか。
「なんだか、見覚えがあるような気が……」
リディアがつぶやくように言った言葉で、俺は一層まわりに気を配った。道がゴツゴツと岩っぽくなり、木々の隙間から漏れてくる日差しが多くなってくる。
少し足を進めると、目の前に緑の展望が広がった。だが、視線は崖の縁に沿った道の先にある岩穴に釘付けになる。
「ここ……」
リディアの顔から血の気が引き、足がすくんだように立ち止まった。夢で見た景色と、同じだったのだろう。
その時、岩穴から一人の男が姿を現した。視線がこっちを向き、異様に驚いた顔になる。
「お、お前は?!」
一歩後退ったその場所が、ガラッと乾いた音を立てて崩れ、男が崖下に落ちた。息を飲んだリディアを、左腕で抱き寄せる。あまり高くはないが、ここからでは下に生えている木の陰になってよく見えない。
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