レイシャルメモリー後刻
第2話 起きて見た夢 9


 すぐ後ろで岩の道に石が擦れる音がし、ハッとして振り返ると、城の小屋にいた奴が大きめの石を振り上げていた。俺は反射的にその腹に蹴りを食らわせる。その男はバランスを崩してしりもちをつくと、持ち上げていた石を自らの胸で受け止める格好になった。ぎゃあ、というその悲鳴を聞きつけたか、岩穴から短剣を持った奴と、俺と同じくらいの長剣を手にした奴が出てくる。
 最初に飛びかかってきたのは、短剣を持った方だった。ほんの少し身体をひねって短剣を避け、腕をつかむ。その腕を手前に引き、腹に膝を入れて屈んだところに、首筋めがけて肘を落とした。俺はリディアを左腕に抱いて、気を失い地面にへばった男の横を通って前に出る。
 もう一人の奴が、長剣を構えた。恐怖だか怒りだか分からないが、切っ先が揺れている。俺は嘲笑を浮かべてゆっくりと剣を抜いた。牽制の意味も込めて、後ろにいる男に一瞬だけ視線を送る。それを隙と取ったのか、長剣の男が剣を振りかぶった。それこそ思うつぼだ。俺は男の剣のガードをめがけて突きを出した。剣の重みで右腕を後ろに引っ張られ、大きく体勢を崩した男のみぞおちに剣の柄を叩き込む。
 仲間がくずおれるのを俺とリディアの後ろで茫然と見ていた城にいた奴が、うわぁ、と叫び声を上げて、木々の間へと駈け込んでいった。
 城の奴らに知らされるのは面倒だが、足元で気を失っている奴らに気付かれて加勢されるのはもっと面倒だ。サッサと何か見つけて木にでも縛り付けてしまった方がいい。
「フォース。みんな見覚えが……」
 腕の中から見上げてくるリディアに、俺はうなずいて見せた。あの使用人がいたということは、城の奴らも本当に山賊なのかもしれない。
 崖の奥まで行き、岩穴をのぞく。その片隅には、引っ越し途中のように荷物が積まれていた。
 俺はそこからロープを取ってきて、気を失っている二人を離れた場所に縛り付けた。まだ必要になるだろうと、持ちやすいようにロープをまとめる。
 そんな作業をしている間、リディアはしきりに崖下を気にしていた。あの夢が本当にあったことなら、この下には城主の遺体があるはずだ。さっき落ちた奴のことも気にかかる。俺とリディアは崖下へ向かった。

   ***

 その場所は容易に見つかった。落ちた場所で意識を取り戻したのだろう、男があげた叫び声が聞こえたのだ。
 男の側へ枝を分けて出て行くと、そいつはまた悲鳴を上げた。見ると、折れてしまったのだろう、両足があらぬ方向へと曲がっている。
 そしてもう少し崖側には、五、六日は経っているだろうか、女性の遺体があった。胸には短剣が深々と刺さっている。
「あ、あんたは誰だ?!」

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