レイシャルメモリー後刻
第2話 起きて見た夢 10


 やはり幾らかは似ているのだろう、その男は震える声でリディアに問いを向けた。
「答えてやる必要はないよ」
 俺の言葉にうなずくと、リディアは俺に寂しげな笑みを向けてから遺体の側へ行き、脇にひざまずいた。リディアは遺体から短剣を抜いて女性の胸の上に置き、そこに遺体の手を重ねる。
「もう神殿の人間じゃないのだけれど」
 そうつぶやくと、リディアは胸の前で手を組み、シャイア神の祈りを捧げている。俺は男の所へ向かい、側に立った。
「あの城はこの女性のモノで、お前ら山賊が乗っ取った。そういうことか」
「なぜそれを?!」
 男は驚いて俺を見上げた。どうしてリディアが現実そのままの夢を見たのか、こっちが聞きたい。返事をしない俺に、男はリディアを指差した。
「そうか、その女なんだな? いったい城主の何だ? 妹か?」
 声をかけられて顔をしかめ、リディアは男に視線を据えた。
「昨晩この人が教えてくれたの。七人の山賊に、ひどい目にあったって」
「まさか、そんなことが……」
 男の顔から、ますます血の気が引いていく。俺はそいつを放ってリディアの元へ行き、立つように促した。遺体の髪を撫でてからゆっくり立ち上がったリディアを横から支え、男に背を向ける。
「お、おい、待ってくれ。俺も連れて行ってくれっ」
 そんな義理は微塵もない。俺は男を振り返った。
「寂しかないだろう。その人がいてくれる」
「バカ野郎、なに言ってっ。一人の方がまだマシだ」
「あいにくだが、俺は二人でいたいんだ」
 その言葉を見上げて微笑んだリディアに、笑みを返して口づける。
「だ、なっ、ちょっ、ちょっと待てえっ」
 慌てはじめた男に、俺は肩をすくめて見せた。
「城に寄って街に着いたら人を寄こしてやる。それまでここにいるんだな」
「お前が死んだら、俺はどうなるんだ?!」
 そいつは自由にならない足をさすりながら、情けない顔を向けてくる。
「あ、そうか。じゃあ、俺が無事に街に着くように祈ってろよ」
 俺とリディアは、助けてくれ、とわめいているそいつを置き去りにして、城へと向かった。

   ***

 裏門の陰に馬を繋いで、束にしたロープを肩にかけ、俺はリディアを連れて城に侵入した。夢によると山賊は全部で七人だという。崖の上の二人、崖下の一人を除けば、残りは城主、執事、使用人と、あとから崖に来て後ろから襲って逃げた奴の四人だ。
 七人という数字をまるきり信じ込んでしまうのは危険だが、どこか疑ってはいけないように感じるところがある。ラッキーなことに、七人の顔は全て見ているので、知った顔以外が出てきた時は、逃げに転じなければと心の片隅で思う。

11へ


前ページ シリーズ目次 TOP