レイシャルメモリー後刻
第2話 起きて見た夢 11


 廊下を進んでいくと、どこからか怒鳴り声やガチャガチャと金属のぶつかる音が聞こえてきた。武器でも用意しているのだろうか。やることはえげつないが、ずいぶん呑気な奴らだ。周りに気を配りながら、リディアとそっと音のする方へ進む。
「まったく。あの男、騎士か何かか?」
 リディアに廊下を見ていてくれるように頼み、声の漏れてくる部屋をのぞき込む。どうも倉庫のようだ。崖の上で見た奴が見え、見つからないよう顔を引っ込める。
「あの男を眠らせられなかったのが、そもそもの原因だろう。薬の量を間違えなければ、血で汚すことなくあの男の身ぐるみを剥いで、女も抱けたんだ」
 使用人の声に、思わずリディアと顔を見合わせる。
「そうともよ。あんないい女滅多に……」
「間違えてなぞいない」
 妙に落ち着いた声は聞き覚えがある。執事だ。
「だったら、なぜ夜中に侵入したら起きている、なんてことになるんだ? しっかり帯剣までしてやがって」
「あれで眠り込まないなんてありえない、何度も言わせるな」
 やはり、城主の恋人と同じように、自分にだけ睡眠薬を盛られていたのだ。どうりで眠れなくなったわけだ。普段は煩わしいだけのこの血に、思わず感謝したくなる。
「逃げた方がいいんじゃないのか?」
「バカ野郎、せっかく手に入れた城を手放せってのか? こっちは何人いると思ってるんだ」
 崖の上で会った男の、音と声が近づいてくる。
「あと四人しかいないじゃないか。えらく腕が立ちやがるんだ。見ていないからそんな」
 ゴチャゴチャ話しながら男が部屋から出てきて、こちらを向いた。すぐ側で目を見開き、口も開いたまま固まっている。
「お褒めいただいて」
 俺は思わずそいつに微笑みかけ、拳でみぞおちを突き上げるように殴った。気を失ってのびた男の手から、リディアが鞘ごと剣を拾う。
 部屋の入り口に立つと、執事と使用人がこっちに目を向け、慌てて立ち上がった。後ろの奴が気付くより先に、そして出来ることならもう一人が来る前に、こいつらを伸してしまいたい。俺はリディアを連れて倉庫へ入った。執事が睨みつけてくる。
「一宿一飯の恩義がこれか」
「だから、直接この城の主人に返しているんだろうが」
 俺の言葉に、執事はフッと苦笑いを浮かべた。
「それにしても、女を連れて戻ってくるとはいい度胸だ」
「一人で置いておくよりはいいだろう。たいしたことない。なにせ、相手がお前らだからな」
 剣を持つ手をしている奴は、七人の中に一人もいなかった。それでも俺の言葉に、執事と使用人は憮然とした表情になる。俺はさらに冷笑を向けた。

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