レイシャルメモリー後刻
第5話 指先の口紅 2
「でも、巫女の服ばかり着ていたから、あまりきらびやかなのは落ち着かなくて」
「皇帝陛下も、装飾を買ってくださったのだと思いますし」
仕立屋さんは何か思いついたのか、あ、と手を叩く。
「それでしたら、会食や行事にご出席になる時に着用されるドレスをお作りになればよろしいかと」
それだと値段も凄いと思ったけれど、皇帝からのプレゼントなのだから変に気を使うのもよくないのかもしれない。
「それでいいんじゃないか?」
同じように考えていたのかフォースがそう言って苦笑した。仕立屋さんの顔がパァッと明るくなる。
「とりあえず数着は用意いたしておりますので、デザインをご覧ください」
仕立屋さんは、後ろにいた女性と二人がかりで、手にしたドレスをベッドやソファー、テーブルに広げだした。寝室がどんどんきらびやかになっていく。
「お気に召したドレスがありましたら、どうぞご試着ください。これなどは、いかがですか?」
仕立屋さんが手にしたドレスは、生地自体が金色に光り輝いている上、装飾もたくさんついている。
「きっとお似合いになりますよ」
仕立屋さんはドレスを私の前に当てた。そのあまりのきらびやかさに困惑してしまう。
「レイクス様、いかがですか?」
私に聞いたらもっと地味なドレスをと言われると思ったのか、仕立屋さんはフォースに話を振った。でも予想通り、フォースは苦笑を浮かべる。
「わかんねぇ」
小さくつぶやいたフォースを横目で見て、アルトスさんが口を開いた。
「イージス、リディア様に式典用の化粧を」
アルトスさんの言葉にイージスさんは、はい、と頭を下げ、もう一人の仕立屋さんと一緒に準備を始める。不思議そうにアルトスさんの方を向いたフォースを見て、仕立屋さんは嬉しそうな笑い声を立てた。
「そうですわね。ドレスをお選びになる時は、それ相応にお化粧していただければ、選びやすいかと存じます」
フォースと目が合ったアルトスさんは、胡散臭そうな視線を返す。
「陛下のプレゼントだ。しっかり選んでいただかなくては」
その言葉を聞きながら、私はイージスさんと自分の寝室へと向かった。
***
後は口紅を塗るだけになった。目の前には意味がないほどたくさんの口紅が並んでいる。最初から用意してくれていたもので、ずっと置いたままになっている。
「口紅はどちらをお使いになりますか?」
「いつもならドレスに合わせるのだけど」
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