レイシャルメモリー 3-03


 スティアは困惑した顔に、無理に笑みを浮かべた。
「フォース、だったりして」
「ふざけるな」
 ぶっきらぼうに返したフォースに、スティアは身体を寄せ、イタズラっぽい笑顔を浮かべて視線を向ける。
「あら、私、フォースのこと好きよ?」
「へえ? じゃあ」
 フォースは雑踏の外側へと、スティアの腕を取って引いた。スティアはその場に踏みとどまろうとしたが、力に負けて少しだけおぼつかない歩を進める。
「どこ行くのよ」
「人気のないとこ」
 表情の変わっていないフォースに、スティアは慌てて手を振り払おうとした。
「ちょっとっ! リディアに言いつけるわよ!」
「目的が違うって。どうして隠すのか訳を聞かせろ。それともここで話すか?」
 フォースは足を止めて振り返った。スティアはまわりにサッと目をやると、うつむきかげんでジッと考え込む。そしてあきらめたように短いため息をつくと、フォースと視線を合わせた。
「分かったわ。行きましょう」
 そういうとスティアは、フォースの先に立ってバルコニーへと歩き出した。
 フォースはバルコニーの両側に立つ兵士に客を入れるなと指示を出し、人混みから抜け出してスティアとバルコニーへ出た。心地よい柔らかな風が頬を撫でていく。たくさんの視線からの解放感に、フォースは思わず深呼吸をした。ひんやりとした空気が、身体と気持ちを静めていく。
 フォースの深呼吸で、逆にスティアは狼狽した様子を見せた。誰もいないことを確認するようにバルコニーを見渡してからフォースに向き直り、怖々声をかける。
「怒ってる?」
「当たり前だ。今日だって、そいつにエスコートしてもらえばよかったじゃないか。そうできない理由をキチンと話せ」
 怒っている訳ではなかったが、そう言った方が話すだろうと思い、フォースは幾分威圧的な言い方をした。スティアは目をそらすとボソッとつぶやく。
「んもう、リディアと一緒にいられなかったからって」
「茶化すな」
 フォースが変わらず真剣なのを見て、スティアはしかたなく話す決意を固めた。
「分かったわ。ちゃんと話す。……恋人がいるの。新人の兵士の知り合い」
 知り合いという言葉に、フォースは苦笑した。これでは結局、恋人の存在しか話していない。
「また微妙な紹介だな。言えないような仕事なのか?」
「そうじゃないけど……」

3-04へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP