レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第1部1章 降臨の障壁
4. 降臨 01


 最近になって神殿中庭の入り口に、旧型の宝飾の鎧レプリカが置かれた。古典的な作りで、あまりにも重くて動きづらく、新たに作り替えられたため、その形を残す目的でわざわざ作成されたのだ。鎧に付いていた数々の宝石類や金は、現行の鎧に移し替えられてはいるが、真っ白で装飾の少ない神殿の壁に映え、充分過ぎるほど豪華に見える。
 中庭の入り口と向きあった階段の途中、出入り口左にあるその鎧は、自然とリディアの視界に入ってきた。いつもとは違う様子に足が止まる。
 鎧にまとわりつくように、ピクシーと呼ばれる虫のような妖精が浮いていた。肩に乗り、鈴を転がしたような声で話しかけていたかと思うと、胸のプレートに寄り添ってキスをする。まるで鎧を口説いてでもいるような妖精の行動から、リディアは少し緑を帯びた薄いブラウンの瞳をそらした。頬がほんのり赤らんでくる。
「あ、ティオ」
 リディアの横を、ティオと呼ばれた五〜六歳に見える男の子が、駆け抜けていった。その勢いで、リディアの腰まである琥珀色の髪と、白く長い神官服がフワッとあおられて揺れる。ティオを引き止めようとして差し出した色白の腕が、そこに残された。リディアは小さくため息をついてから、ゆっくりと後を追う。
 ティオは階段を下りる間にみるみる巨大化していき、中庭入り口に着いた時には、入り口がふさがってしまうほどの大きさになった。振り返ったその顔は既に人間のモノではない。目はギョロッと丸く、口が裂け、耳が尖っている。ティオはスプリガンという種の妖精なのだ。短い足が緑のずんぐりした体を支え、異様に長い腕が通せんぼをするように左右の壁を押さえた。鎧に手がぶつかり、ガシャッと音を立てる。
 鎧にまとわりついているピクシーが、睨むように怪物のような妖精に視線を投げた。文句でも言っているのか、甲高い音が聞こえる。ティオはそれを無視して、すぐ側まで来たリディアに大きな目を向けた。
「どうして来ないかもしれないのに、待ってるなんて言うんだよ」
 図体に似合わない拗ねた声が廊下に響く。とてもリディアを守ると言って側にいるガーディアンとは思えない。リディアは微苦笑して、憮然とした緑色の顔を見上げた。
「だって来るかもしれないのよ? 中庭に出ましょう。ほら、邪魔みたいだし」
 リディアの言葉に、ティオがピクシーを見た。その鎧に抱きついたままの妖精が、そうよとばかりに顔をツンと背ける。それを見て、ティオは頬を膨らませた。
「邪魔したっていいじゃないか。リディア、この鎧がこんな奴に言い寄られるのは、嫌だって思ってるだろ。中身が入ってるわけじゃ無いのにさ」

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