レイシャルメモリー 4-02


「ティオ!」
 リディアはティオの口を止めようと、眉を寄せる。
「そうやって心を覗いたことを口にしちゃ駄目っていつも」
 聞いているのかいないのか、ニッコリ笑っていたティオが、不意にリディアから目をそらした。城へと続く廊下の先を見ている。
「ちぇっ、中身だ」
 リディアは訳が分からないまま、ティオの視線を追って振り返った。そこにフォースがいた。リディアの表情がほころびていくのを見つめたまま、ティオはもとの可愛らしい子供に変わっていく。まるで怪物の姿が嘘だったかのように人間らしく小さくなると、ティオはリディアの陰に隠れた。
 フォースは、レプリカの鎧にからみついている妖精にチラッとだけ視線を向けたが、その妖精もティオも目に入っていないかのように無視して、リディアの前に立った。ずっと抱えていた愛しさが、フォースの体中にわき上がってくる。リディアの笑顔の瞳を、涙が覆っていく。
「無事で……」
 それだけ言うと、リディアは涙を隠すようにうつむき、フォースの鎧の胸プレートにコンと額を付けた。フォースはリディアの髪を撫で、そのままそっと背に腕を回す。フォースにはリディアの身体が、手に力を込めるのがためらわれるほど、柔らかでおぼつかなく感じた。
「待っていてくれると思ったら、一ヶ月がひどく長くて」
 フォースはリディアの頬を指でなぞるようにして上を向かせ、その潤んだ瞳を見つめた。
「会いたかった」
 視線を合わせたまま、フォースとリディアは、どちらからともなく唇を寄せる。
「ねぇ!」
 ティオがいきなり大声を出した。その声に驚いて、二人は思わず視線を向けた。フォースはリディアを支えるように抱いたまま、ムッとしてティオを見下ろす。
「てめぇ」
「俺とも会いたかった? 見えてるのに、無視はよくないよ」
 そう言うと、ティオは何度もうなずいている。うんざりしたように、フォースは鎧の端を掴んだままのティオを見据えた。
「隠れたのはお前だろ。まったく、お前のこと気にしてたら、なんにもできやしない」
「何する気なんだよ」
 ティオは、ふてくされた顔をフォースに向ける。ウッと言葉に詰まってから、何か返事をしようとフォースは口を開いた。
「え? あ、ええと……」
 言いよどんだフォースと定まらない視線を交わし、リディアは赤みが差した頬を両手で包み込んだ。ティオは不機嫌そうな顔のまま、リディアをじっと見つめる。

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