レイシャルメモリー 4-04


 今回のことは自分のせいだと思ったが、フォースは言い返したい気持ちをグッと押さえた。何かにつけて意見が合わない相手なのだ。早くやり過ごすに越したことはないと思う。だがそんなフォースの願いも虚しく、クエイドはリディアに視線を向けた。
「ソリストのアテミア殿は、随分回復されたようだね」
 リディアは口元にだけ微笑みを浮かべ、ハイと返事をした。
「今日は本職ソリストの歌を久しぶりに聴いたよ」
 そう言うとクエイドは、チラッとだけフォースに視線を投げ、愛想笑いをしたリディアの側に立つ。
「見習いでもソリストならば、この騎士がどれだけシャイア神のためにならない戦をしているか分かるだろう?」
 よりによってこの話かと、フォースは眉を寄せた。クエイドはリディアの肩に片手を乗せる。
「シャイア神にとって、相手の騎士を斬り捨てることがどれだけ大切か、教えてやってくれないかね」
 その言葉にリディアは思い切り顔をしかめた。リディアの横に立ち、クエイドは反対側の肩まで手を伸ばしてくる。それを避けるように、リディアはクエイドに向き直った。
「シャイア様は、けして殺生を好まれるような女神ではありません」
 リディアは言葉でもクエイドをきっぱり拒否した。クエイドは目をスッと細くする。
「見習いは見習いなりの解釈しかできないのだな。斬らねば戦力を削れないのだぞ? シャイア神の土地も取り戻せないのだ。優位に立っておいて生かして帰すなどもってのほかだ!」
 声を大きくするクエイドに、リディアが幾分青ざめた。かばうようにフォースはあいだに入る。
「リディアと俺のやり方は関係ない」
「関係ないだと? 万が一ライザナルで反戦運動が起きたとしても、それが一体なんの足しになる? お前のような騎士がいるからヴァレスが落ちるようなことになるのだ!」
 その言葉に、フォースは耳を疑った。気持ちがひどく狼狽している。斬らないで帰せた騎士は数えるほどだ。それだけのせいでヴァレスが落ちたなどというのは、詭弁にしかならない。だがそれを口に出すことができず、フォースは唇を噛んだ。クエイドはあざ笑うように頬をヒクッと動かし、フォースと顔を突き合わせる。
「これで二位の騎士だとはな。自分の国に帰ったらどうだ? そこでなら神に忠誠を尽くす良い騎士になれるぞ」
 言葉を返さないフォースを笑い飛ばし、クエイドは背を向けて去っていった。

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