レイシャルメモリー 4-05


 自分の国と言われても、フォースに思い当たる国はメナウル以外どこにもない。メナウルに濃紺の目を持つ人間は他にいないため、クエイドには他国の人間だと言われるのだ。実際はフォースの母親が同じ瞳をしていた。だが、もともとメナウルにいたのか、どこかからメナウルに来たのか、ほとんど明かすことなく母は亡くなってしまった。父も知らないと言うのだから、フォースにはもう確かめようもない。
 クエイドが完全に見えなくなってから、リディアはフォースの顔をのぞき込んだ。フォースの表情は硬いままだったが、リディアと視線があうと微かに作り笑いを浮かべた。
「ゴメン、こんな話」
 フォースに首を横に振って見せ、リディアは小さくため息をつく。
「クエイドさんは、目にする騎士みんなに斬れ斬れって言うのかしら。もしも、みんながうなずいてしまったら……」
 心配げなリディアを見て、フォースは仲間の騎士達の顔を思い浮かべた。
「いや、大丈夫。少なくとも俺のまわりにそんな騎士はいないよ。大丈夫」
 フォースを見上げて聞いていたリディアの表情が、フワッと微笑みに変わる。と同時に、フォースは自分の気持ちの波が薙いでいくのを感じていた。リディアの笑顔はいつも、フォースのこごった気持ちを解かし、安らぎや安堵を与えてくれる。それはフォースにとって唯一であり、かけがえのないものだ。
 急にティオが中庭に走り出た。リディアが呼び止めようとしたが、もう既に随分遠いところに背中が見える。
「どうしたのかしら。ずっと離れたことって無かったのに」
 リディアは困惑した顔でフォースを振り返った。ティオはリディアを守ると明言してから今まで、片時も側を離れずにいたのだ。リディアが心配するのも理解できる。フォースは中庭を親指で示した。
「行ってみようか?」
 うなずいてリディアは歩き出した。フォースが横に並ぶ。
 中庭といっても結構広い。いろいろな種類の木が植えられ、散策するためにつけられた道の両脇には花が咲いている。そこに踏み出して、フォースは思わず足を止めた。五、六匹のピクシーが目に入ってきたのだ。手のひらくらいの大きさから、子供の大きさくらいまでいる。羽根も個性的で、蝶のようだったりカゲロウのようだったり、いろいろな形、さまざまな色の光を放っている。美しい光景だとは思う。だが、これまで数えるほどしか妖精を見たことが無いフォースには、少し不気味に感じた。
「いつもと違って、にぎやかでしょう?」
 フォースより二、三歩先に進んで振り返ったリディアが、フォースの思いを察したように言う。
「最近、とても多いのよ」

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