レイシャルメモリー 4-06


 リディアは楽しげな微笑みを浮かべてまわりを見ている。妖精達が向けてくる珍しいモノを見るような視線がうるさくて、フォースは苦笑でごまかした。この光景に慣れているのか、リディアはさっさと中庭の奥へと歩を進めていく。フォースは慌てて後を追い、リディアと肩を並べた。
 横からのぞき込むように飛んでいるピクシーに、リディアは手を差し出した。小さな妖精は何度かリディアの手をかすめて行き来し、ほんの少しだけ指先に触れて逃げるように飛び去っていく。
「とても綺麗よね。見えるようになるのって嬉しいわ」
 それを見送って、リディアはフォースに笑顔を向けた。そのあいだをピクシーが横切り、フォースは顔をしかめる。
「でも、ちょっと多すぎる」
 まわりを改めて見ると、たぶんピクシーだけではなく、まだまだ結構な数の妖精がいそうだった。葉の陰から光が見え隠れしているところが何カ所かある。
「ティオったら、どうしたのかしらね」
 中庭の真ん中、女神像がある少し広くなった場所で、リディアは中庭の奥をのぞき込むようにしてため息をついた。フォースは心配げなリディアに微笑して見せる。
「知り合いでも、いたのかもな」
 フォースは、さらに奥に進もうと足を踏み出した。リディアは腕をとってフォースを止める。
「もしそうなら邪魔になるわ。待っていた方がいいんじゃない?」
「俺、ものすごく邪魔したい気分なんだけど」
 イタズラな笑みを浮かべて振り返ったフォースに、リディアは苦笑して眉を寄せた。
「駄目よ。相手が妖精なら驚いていなくなってしまうわ。可哀想」
 ムッとした顔をして、フォースはリディアの頬に触れる。
「お互い様だろ」
「え? あ」
 キスの邪魔をしたティオを思い出し、リディアは口を押さえた。その手をフォースが掴む。
「行かないか? 一緒に」
 虚をつかれたように、リディアはキョトンとした顔をフォースに向けた。フォースはリディアをまっすぐ見つめる。
「明日の午後には、城都を発たなきゃならないんだ」
 フォースが城都に滞在する時間はいつも短い。そして行き先は戦の中なのだ。実際の距離より精神的な距離が、さらに遠い。リディアは寂しさと悲しさで顔をゆがめた。
「次に戻れるのは、二ヶ月以上あとになる。それもヴァレスがあんなことになったから、確実に戻れるのかも分からない」
「でも、アテミアさんが……」
 リディアはそこまで言葉にしたが、あとは声にならなかった。本当は自分がどうしたいのか、もう自覚してしまっているのだ。フォースは掴んでいた手を引いて、リディアを抱きしめた。

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