レイシャルメモリー 4-07
「ただの一ヶ月があんなに長かったんだ。それ以上だなんて考えられない」
見つめ合ったリディアの瞳に涙が溢れてくる。フォースはリディアと唇を合わせた。リディアのすべてを包み込むように、腕に力を込める。
「もう、離したくない」
息がかかる距離のフォースの言葉に、リディアは身体を寄せた。
「私も、側にいたい」
小さな声だったが、それはフォースの耳にしっかりと届いた。
大きな影が二人を覆った。フォースが顔を上げると、そこには妖精の姿をしている大きなティオがいた。またお前かと思いながらフォースはティオを見上げたが、すぐいつもと違う様子に気付いて眉を寄せた。ティオはボゥッとまっすぐ前を見て、何も考えていない、ほうけたような顔をしている。リディアもフォースの視線を追ってティオを見上げた。
「ティオ? どうしたの?」
リディアの声が聞こえたのか聞こえていないのか、ティオはゆっくりと視線を落とし、二人を見た。
「ティオ?」
リディアはフォースの腕から離れて、ティオの方へと足を踏み出した。途端、ティオの大きな手が、リディアの身体を掴んだ。剣の柄に手をかけたフォースを、もう片方の手で払い飛ばす。側にあった木の幹に、凄い勢いで背中をぶつけ、フォースは地面に両手をついてうめき声を上げた。
「ティオ! なんてことを! 放して!」
そう叫んだリディアを両手のひらに乗せ、ティオは腕を高く突き上げた。
空が急激に明るくなり、目を開けているのが辛いほどのまぶしい光の球が、まっすぐティオの手のひらに落ちた。ドンという音がして、辺りが光に溢れ、何も見えなくなる。
少しずつ光がおさまり、目が慣れるにしたがって、白い布切れがゆっくりと辺りに降ってくるのがフォースの目に入った。
「リディア?!」
その布切れがリディアの服だったことに気づき、フォースは剣を抜いて少しずつ見えてきたティオに駆け寄ろうとした。草が急激に伸びて足にからみついてくる。
「くそっ!」
フォースは剣を足元に向けた。草に刃を当てる直前、今度は剣を持った腕に後ろの木の枝が巻き付く。剣を引き留める枝に驚き、振り返ろうとしたその首にも枝が伸びてきた。苦しさに剣を取り落とし、首に絡んでくる枝に手をかける。だがそれは千切れるどころかドンドン成長して鎧の隙間から入り込み、身体まで締め付けて息をする自由までをも奪っていく。意識が遠のきかける中で、フォースはただリディアの身だけを案じた。
ティオの掲げた手のひらに吸い込まれるように、光がひいていく。と同時に、フォースを拘束している枝の力も抜けていった。フォースはそれを待っていたように、手の枝をほどき、首をつなぎ止めた枝を折る。