レイシャルメモリー 5-02


「いえ、いくらかの支障は出るでしょうが、普段の業務でしたら他の騎士に振り分けてもかまわないかと存じます」
 その発言の意外さに驚き、フォースは思わず顔を上げてクエイドを見た。クエイドは笑ったのか顔をしかめたのか、フォースと視線を合わせてわずかに目を細めると、再びディエントと向き合う。
「降臨の光の内側にいて命を落とさなかったのは、彼が初めてだそうじゃないですか。もしそれに意味があるならば、彼が必要だったから殺さなかったのではないかと」
 クエイドはディエントが微苦笑を浮かべたのを見て言葉を切った。そのままディエントが口を開くのを待つ。
「まあ、そう取れないこともないな。私としては、女神が降りたからこそ、前線に彼のような存在があった方がいいと思ったんだが」
「それは反戦運動を推進なさると、そういうことですか?」
 クエイドはグッと眉を寄せた。ムゥとうなり声をあげると、まっすぐディエントを見据える。
「陛下が直々に、そのようなことをおっしゃるなど。一部の民の意見を鵜呑みにされるようなことは」
「そうではない。私にはそのような行動はとれん。ただ、若い時にそう考える時期があるのは、私自身も否定はできんのだよ」
 ディエントの言葉を聞き、フォースはサーディに視線を向けた。サーディはその視線を避けるように肩をすくめ、フォースは表情を厳しくする。
「まさか……」
 フォースの険しい視線を手のひらで遮るようにして、サーディは苦笑した。フォースは思わずサーディに向き直る。
「良くない!」
「いけません!」
 かぶった声にギョッとして振り返ったフォースに、耳を疑うかのようなクエイドの視線が合った。フォースはクエイドから目をそらして口をつぐんだ。サーディは、クエイドが茫然とフォースを見ているのを目にして、ため息のように苦笑した。
「こんなところで意見を合わせてくれなくても。今はこの話をしている時ではないし、あとから別々に聞くよ」
 クエイドは不満そうな顔をした。ディエントはそれを手で制し、あらためてサーディと向き合う。
「フォースは女神の護衛に就いてもらおうと思うがそれで良いな?」
「はい。私もそれが最善だと思います」
 そのサーディの返事に満足そうにうなずき、ディエントはテーブルに着いた面々を見回した。
「では、女神の護衛は、フォース、頼むぞ」
 フォースは動揺をなんとか抑え込み、敬礼で答えた。ディエントは、シェダが控えめに表情をほころばせたのを目の端で見て、クエイドに言葉を向ける。

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