レイシャルメモリー 5-03


「神殿警備はフォースに兼任させるとして、影響してくる部分とサーディの護衛についての配置を熟慮してくれ」
 クエイドはディエントに深々と頭を下げた。
「他には?」
 ディエントの視線に、シェダがハイと返事をする。
「リディアは女神の部屋で生活し、フォース君には前衛の部屋を使ってもらいます。それから神殿側では専属でシスターを二人付けます。あとの細かいことは神殿の方で説明しようと思いますが」
 ディエントがうなずいて向けた瞳に、フォースは敬礼を繰り返した。
「承知いたしました」
「では、すぐにでも警備の体制を整えてくれ」
 ハイと返事をしたフォースの肩を、シェダがポンと叩く。
「頼むよ」
「はい。では私はこれで失礼いたします」
 フォースは一度立ち上がり、その場で最敬礼をした。
「では、私めも」
 クエイドがかしこまったお辞儀をする。フォースは先に立ってドアを開け、クエイドを通してから部屋を出た。ドアを閉めて振り返ると、留まったままのクエイドと目が合う。
「お前がサーディ様の反戦運動に反対するとはな」
 クエイドの冷笑に、フォースは何も言わず口をつぐんだままでいた。
「お前が敵を斬らないなどと妙な真似をするものだから、サーディ様にも影響が出たのだろう。まぁ、相手の戦力を削ろうとしない騎士など、戦の中では意味がない。女神の護衛がお前には似合いだ」
 クエイドの喉から漏れる含み笑いに対し、フォースは丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます」
 予想をしていなかっただろうフォースの反応に、クエイドは苦々しげに顔をゆがめる。
「女神に降臨を解かれるようなことになれば、どうなるか分かっているだろうな」
 そう言い残すと、クエイドは廊下の奥へと去っていった。
 クエイドの姿が見えなくなって、フォースは身体の力が全て抜けるほどの大きなため息をついた。これから女神の護衛に就かなければならない。リディアをあんな目に遭わせた奴を守れというのだ。もしも女神だけ斬れるものなら、叩き斬ってしまいたいほどの衝動に駆られる。フォースは苦渋に顔をしかめた。
 フォースの背後、執務室のドアが開いた。慌てて振り返ると、シェダが部屋から姿を見せる。
「どうなるか分かっているだろうな、で、固まっていたのかね?」
「あ、いえ、そんなわけでは。聞いていらしたのですか?」
 フォースの力のない声に、シェダは苦笑した。
「ドアの側にいたからね。聞かずとも聞こえるよ。まっすぐ部屋へ行くのかね?」
 フォースはシェダに向かい、ハイとだけ返事をした。シェダは行こうと言うが早いか、先に立って歩き出す。フォースは慌てて後に続いた。

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