レイシャルメモリー 5-06


 フォースはナシュアに敬礼を向けた。頭を上げたナシュアは、それを見てもう一度、軽く視線を外さない挨拶をする。
「あぁ、すまん。初めてだったね」
 シェダはリディアが眠っているベッドに腰掛けたまま、フォースとナシュアに声をかけた。ナシュアはいいえと首を横に振る。
「陛下はシェダ様のお願いを聞いてくださったんですね」
「承諾していただいたよ。本当によかった。リディアには一番だ」
 シェダの言葉に微笑みながら、ナシュアは手にしたシーツをベッドの向こう側の棚に片付けにかかった。
 フォースは降臨が起きた時に思いを巡らせていた。あの時、どうにかしてリディアを守ろうと、敵を斬ろうとしたのだ。その敵が女神だった事実は、フォースに重くのしかかっていた。降臨だと知らなかったとはいえ、許されることではないと思う。それなのにフォースは女神に殺されることなく、逆に生かされているのだ。フォースには、なにがなんだか訳がわからず、そして、ただリディアを守れなかった自分が、疎ましくてならなかった。
 静寂をシェダのため息が破った。シェダはリディアのベッドから立ち上がる。
「私は執務室に戻る。後のことは頼むよ。細かいことはグレイ君、君がフォース君に教えてやってくれ」
「はい」
 頭を下げたグレイに一言頼むぞと言い置き、フォースの肩をポンと叩いて、シェダは女神の部屋を出た。
 廊下へのドアが閉まる音がすると、グレイは声を殺して笑い出した。フォースはそんなグレイに恨めしげな視線を向ける。
「グレイ、てめぇペラペラと……」
「悪かった。状況説明したら、見てたことまでバレちまってさ。ゴメンって」
 謝りながら、グレイはまだ笑っている。フォースはグレイを無視してベッドに近づいた。恐る恐るリディアの顔をのぞき込む。フォースの目には、リディアの寝顔が今にも泣き出しそうに見えた。
「大丈夫ですよ」
 ベッドを挟んで向こう側からナシュアが声をかけてくる。フォースはそんなに心配そうに見えたのかと、何も言えずに苦笑だけ返し、視線をリディアに戻した。手を伸ばし、そっと頬にかかった琥珀色の髪をはらう。眉が少し寄った気がして、フォースはベッドのヘッドボードに手をつき、リディアの表情をジッとうかがった。少しずつリディアの瞳が開く。
「リディア?」
「こら」
 グレイが後ろから鎧をつかみ、フォースの上半身を引っ張り起こした。
「フォース、無理に起こすなよ?」
「起きたから声をかけただけだって」
 フォースのムッとした声に、グレイはリディアに目をやって息をのんだ。
「一日で気付くなんて、前例に……」

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