レイシャルメモリー 5-07
「もういいよ、そんなこと」
フォースは吐き捨てるように言うと、リディアに向き直った。
「大丈夫か?」
コクンとうなずいて起きあがろうとするリディアに、フォースは手を貸した。リディアはフォースのすぐ前、ベッドの上に、ペタンと座り込んだ。グレイがフォースの横から顔を出す。
「リディア? 何があったか覚えてる?」
「降臨、ですね」
リディアはその言葉にしっかりと返事をした。グレイはリディアにうなずいてみせる。
「身体の調子はどう?」
二度目の問いに、リディアはほんの少し身体を揺するように動かして確かめた。降臨の時に服がはじけ飛んだのを思い出したのか、胸に手を当てて頬を染める。
「変わりありません」
「そう? よかった」
グレイの微笑みを見て、ナシュアが知らせてきますと部屋を出ていく。リディアはベッドに座ったまま、心配げな目を向けているフォースを見上げた。首に付いた、枝に絞められた跡を見て眉を寄せる。
「生きていてくれたのね」
リディアは涙をこらえた顔を隠すように、フォースの鎧にコンと額を付けた。今までと変わらないリディアだ。そう思うと、フォースの身体から幾分緊張が解けた。フォースはリディアのつややかな髪を、そっと撫でる。
「ゴメン、守ってやれなくて……」
リディアは驚いたように顔を上げた。首を思い切り横に振る。
「だって、シャイア様なのよ?」
その名を出しても、フォースは後悔の表情を変えなかった。リディアの瞳から涙が溢れてくる。その涙をぬぐいもせずに、リディアはフォースを抱きしめた。
「ありがとう」
リディアの言葉に、フォースはいくらか安堵し、両腕でそっとリディアを包み込んだ。グレイはアーアと声に出るほど大きくため息をつく。
「まったく……。間違っても他に人がいるところで、そんなこと言うなよ」
グレイはフォースに向かって苦笑してみせた。フォースはリディアを抱いたまま、グレイにもゴメンと繰り返す。
「ま、でもシェダ様は、フォースのそういう面も全部ひっくるめて、護衛に指名したんだろうけどな」
何度かうなずきながら言ったグレイに、フォースは訝しげな顔を向けた。グレイは肩をすくめて、騎士の部屋へと向かう。
「シェダ様は、女神も大事だろうけど、リディアも大事なんだろうからさ」
フォースは、その言葉を噛みしめるようにうなずいた。それを見て、グレイは微笑みを残し、となりの部屋へと移動していく。黙って聞いていたリディアが、涙をぬぐってフォースを見上げた。
「護衛、フォースなの?」
「さっき、正式に受けてきたよ」
フォースはリディアに笑顔で返した。リディアは安心したようにホッと息をつき、それから思いついたように憂え顔になる。