レイシャルメモリー 5-08


「これから私、どうしたらいいのか。これじゃあいつもと変わりないわ」
 リディアは困惑したようにため息をついた。フォースが答えを返せないでいると、前衛の部屋のドアが開く音が聞こえてきた。たぶんシェダが来たのだろうと思う。
 その時フォースは、いきなり頭部に衝撃を感じた。その場で頭を抱えたフォースを、リディアは狼狽したようにのぞき込む。
「どうしたの?」
 フォースは頭の痛みを振り払うかのように首を横に振った。だんだん痛みが引いていき、そこに残った意志がハッキリしてくる。
「前線、だって? 女神か?」
「フォースにも聞こえたの? すぐに前線に立てって。シャイア様の声よ。大丈夫?」
 心配そうに見上げてくるリディアに、フォースはうなずいて見せた。
「ああ。でも、声っていうより、まるで頭を殴られたような」
「気が付いたんだね」
 振り向くと、ちょうどシェダが部屋に入ってくるところだった。後ろからグレイも入室してくる。フォースは二、三歩下がってシェダを向かい入れた。シェダはまっすぐリディアの元へ行き、ギュッと抱きしめて背をポンポンと叩く。
「よかった」
「お父様、シャイア様がすぐに前線に立てと、そうおっしゃったの」
 リディアは、シェダの腕の中から話しかける。シェダはリディアと視線を合わせた。
「すぐにか?」
「はい」
「それはまたいきなりだね。前線に出たことがないわけではないが。では、神殿警備は、ん?」
 シェダはフォースに言葉を向けようとして、その顔色が優れないことに気付いた。
「どうしたんだね?」
「フォースにも、声が聞こえたんです」
 そのリディアの言葉に驚いたように、シェダとグレイが顔を見合わせた。シェダがフォースに向き直る。
「本当かね?」
「ええ。声というより、思念というか、意志そのものでしたが」
 シェダは真意を測るように、ジッとフォースに見入った。フォースはシェダを訝しげに見返す。
「あの、なにか?」
 フォースが理解していないことに焦れたように、グレイが肩をすくめる。
「フォース、それも前例にないんだ」
「前例? また前例か?」
 グレイはフォースのうんざりといった声にうなずいた。
「降臨の光の中にいて無事だった奴も、降臨されているわけでもないのに女神の声が聞こえた奴も、今まではいなかったんだ」
 グレイとシェダに難しげな表情を向けられ、フォースは顔をしかめた。
「嫌われてるのかな」

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