レイシャルメモリー 5-09
フォースのつぶやきに、シェダがブッと吹き出した。グレイが人差し指を揺らして首を横に振る。
「あのな。普通逆だろ。嫌われてれば殺されてるし、わざわざ意志を伝えたりするようなことはしないって」
グレイのあきれ顔に、フォースは憂鬱そうな視線を返す。
「俺には嫌みにしか思えない」
グレイはお手上げとばかりに両手を広げた。
「ボケ」
ボソッと声が聞こえた。フォースとリディアは顔を見合わせる。
「ティオ?」
リディアは周りを見回した。フォースはベッドの足側から回り込む。反対側まで来た時、ヘッドボードの陰から子供の姿のティオが飛び出した。フォースが後を追うと、ティオはベッドに飛び乗り、リディアの陰に隠れる。リディアはティオを捕まえて、面と向き合った。フォースが横から声をかける。
「てめぇ、なんで姿を隠したりしたんだ」
ティオはプクッと頬を膨らませた。
「だって怒ってるんだもん」
「てめぇは妖精なんだから、どうせ女神に逆らったりはできないんだろ? いなくなったりしたら心配するだろうが。ったく」
フォースのついたため息を、ティオはキョトンとした顔で見つめている。
「怒ってるのは私よ」
リディアの声に、ティオは驚いて振り向いた。
「どうしてフォースを突き飛ばしたりしたの」
リディアの静かな口調に、ティオはシュンとなる。
「だって、シャイア様の光の中にいたら死んじゃうだろ。でも、もっと遠くに飛ばさないと駄目だったみたいだけど」
ティオが口の中でモゾモゾと答えたのを聞いて、リディアは思い切り顔をしかめた。
「そんなコトしたら死んじゃうでしょう」
「あ、そっか」
ティオは力無くアハハと笑い出す。フォースは薄笑いを浮かべた。
「ボケ」
「お前が言うな」
「なんだってぇ?」
フォースがティオを捕まえようとすると、ティオはリディアの陰に隠れた。ティオは顔だけ出してフォースをにらみつけ、グルグルとのどを鳴らしている。フォースはティオと顔を突き合わせた。
「またそうやって隠れる」
「羨ましいんだろ」
ティオの言葉に唖然としているフォースの肩を、シェダが含み笑いをしながらポンと叩く。
「とにかく、前線に向かってもらうよ。私は神殿警備の話を、クエイド殿に通してくる」
フォースはハイと返事をして、シェダに敬礼を向けた。