レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第1部2章 女神の開戦
2. 女神の開戦 01
草木が生い茂った中に、かろうじて細い坂道が残っている。木々の枝が覆うその坂を、フォースはリディアの手を取って登っていた。後ろから自分の隊の兵士が二人、なにやら話をしながら付いてくる。
長身の方がブラッドだ。細めの印象があるが、腰に下げた剣は剣身の幅が広く、ある程度力がないと使いこなせそうにない。時々空を気にかけ、薄茶色の髪を揺らして木々の葉を透かすように目を配っている。
その横に並ぶのは、中肉中背、大きな剣を背負ったアジルという兵だ。道に伸びた枝が、黒に近い濃茶の髪に当たるのを気にもとめず、キョロキョロとあたりに気を配りながら歩を進めている。
とぎれとぎれに聞こえる兵士二人の会話に、たまにフォースの悪口が混ざる。リディアはフォースが怒り出すのではないかと内心ドキドキしていたが、一向にその気配はない。リディアが振り返って見ると、兵士はニヤニヤとこちらに手を振って見せた。気をとられてバランスを崩したリディアを、フォースは横からヒョイと支える。
「リディア、ちゃんと足元を見ていないと危ないよ」
「ごめんなさい、だって……」
リディアがもう一度後ろを向くと、兵士は知らん振りで、お互いにそっぽを向いた。フォースはつられるように兵士を振り返り、それからリディアに微苦笑を向けた。
「ああ、いいんだ、あれで。うるさくしていた方が、凶暴な動物も警戒するから出てこないだろう?」
フォースの言葉に、リディアは身体をすくめてフォースの腕を取り、兵士二人はビクッとして辺りを見回した。リディアを安心させるように、行こうと微笑んでから歩き出したフォースの腕が震えているのに気付き、リディアはフォースを見上げた。笑いをこらえているフォースの顔が目に入る。
「んもう! 嘘ついたのね?」
「嘘じゃないよ。この辺に凶暴なのはいないってだけで」
リディアは想わずフォースの鎧を叩いたが、痛いのは当然リディアの方で、フォースは笑い声を立てた。
ガンッと、いきなりフォースに女神の意志が響いた。先を急がすその思念に、フォースは顔を歪める。リディアが心配げにフォースを見上げた。
「行こう」
低い声で言うと、フォースはリディアを抱えるように支えて、サッサと歩き出した。本来、巫女にしか聞こえないはずの女神の声が、フォースにも届いているのだ。この声を聞くと降臨を思い出すのか、頭に衝撃があるからか、フォースは少し不機嫌になった。だがその声に逆らってもリディアが困るだけなのを分かっていて、直接返事をするわけでもなく従っている。