レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第1部2章 女神の開戦
3. 刺抜き 01
フォース、リディア、アジル、ブラッドの四人は、街道に出て隊と合流した。移動が楽なように馬の数を揃えていたので、隊の全員が騎乗する。フォースはリディアを後ろに乗せ、ヴァレスを目指した。
ティオは緑色の巨体の姿で、隊の後ろからついてきた。ずんぐりした体型の割りに長い腕を元気に振り、微塵も音を立てずに森の中を歩ける短い足が、わざとのようにズンズンと大きな足音を立てる。隊の後方についていたブラッドが馬の背を指さし、頼むから乗ってくれと懇願した。ティオは分かったと言うが早いかドンッと地面を蹴って飛び跳ねる。大きいまま乗るつもりかとブラッドは青くなったが、背中に落ちてきた時には小さな子供の大きさになっている。ブラッドは安心してため息をついてから、ティオの笑顔につられるように苦笑した。
だんだんメナウルの兵が目につくようになってくる。自分の隊の兵士と道ばたの兵が笑顔で掛け合う言葉を聞きながら、フォースは向けられる敬礼にその都度しっかり返礼した。リディアも声をかけられるたび、小さく手を振り返す。
ヴァレス近辺まで北上すると、右前方に神々が住むと言われるディーヴァの山々が見える。ストーングレイの山肌に、アイスグリーンの冠雪が映えて美しい。ヴァレスを見ると、教会の鐘塔が高く突き抜けて見えた。ヴァレスに近づいてくるにつれ、その鐘塔は高さのある防壁に下方から隠れていく。
ヴァレスの門前には、数人の兵士とゼインが待っていた。ゼインは城都で神殿警備に就いていた騎士で、リディアとも馴染みがある。ゼインが笑顔でよこした敬礼に、フォースは訝しげに返礼した。
「なんでここに?」
「ヴァレスの神殿周辺警備の任を受けたんだ」
嬉しそうなゼインの返事に、フォースはフーンと答えながら苦笑した。そう言われてフォースは、すれ違った兵士の中に、城都の神殿で見覚えのある兵が多かったことに気付く。城都の神殿警備室の前で偶然聞いた、ゼインとクエイドとの言い争いも、ついでのように脳裏に浮かんだ。つるんでいるのかいないのかは分からないが、フォースにとってはどちらも苦手な部類の人間だ。できれば関わりたくないのだが、仕事なのでは仕方がない。
「そうそう、聞いたか? 今回の犠牲者はライザナル側に二人だけだってさ」
ゼインのいかにも嬉しそうな声に、フォースは眉を寄せた。自分につかまっているリディアの手に、力がこもった気がしたからだ。フォースが振り返ると、リディアは硬い微笑みだったが、いくらかの笑顔を返した。ゼインは不機嫌な顔をされるのは心外だといったふうに、ため息をつく。
「あとは神殿まで予定通りどうぞ」