レイシャルメモリー 3-04
「あ、そうだ、リディアさんの部屋、あの角の窓のところだって」
バックスは神殿の裏手になる二階角部屋の窓を指さした。フォースは、その窓に目を向けて顔をしかめる。
「あれ何? すぐ側の角に、地面から伸びてるあの」
「雨樋か? 地面からじゃなくて屋根から伸びてるんだけど」
ニヤッと笑ったバックスに、どっちでもいいと答えながら、フォースはリディアを促して雨樋のところまで行った。バックスも後からついてくる。フォースは雨樋を掴んで引っ張ってみたが、結構ガッチリ取り付けられていて動かない。
「これ、登れるんじゃないか? 取っ払っちゃ駄目か?」
フォースは雨樋の横から裏側を見上げた。何カ所かにしっかりした金具が見える。
「よぉ!」
後ろからの声に振り向くと、グレイが小さく手を振りながら立っていた。
「え? グレイも配置替えか?」
驚くフォースに、グレイは笑いながら肩をすくめる。
「フォース、城都を出発するのが早いんだよ。配置が決まった時には、もう出た後だったし。フォースが街道左の丘に登ってた時に、やっと追い越したんだ」
「早いったって、こっちも急かされてた身だからな」
フォースはあきらめ半分に首を横に振った。グレイは雨樋を下から上まで眺める。
「それはまぁいいけど。頼むから神殿壊すなよ。こんなところを登ろうなんて考えるのはフォースくらいだって」
「え? 俺はドアから入るよ」
フォースの返事に、グレイはため息をついてフォースと向き合い、肩に両手をポンとのせた。
「毎度おなじみ出張懺悔室です」
グレイの言葉に、フォースは呆れ顔になる。
「何が毎度だよ。まだなんにもしてねぇよ」
「まだ、ねぇ」
グレイは含み笑いを始め、ブッとバックスが吹き出した。バックスは必死に押さえた苦笑をフォースに向ける。
「護衛自ら巫女様に手を出したりしたら、投獄どころじゃ済まされないぞ?」
フォースはムッとした顔をバックスに突きつけた。
「そう思ったら、雨樋にも警備な」
フォースは嫌み半分でそう言うと、リディアに向き直る。
「神殿に入ろう。安全なんだそうだから」
裏玄関に向かおうとしたフォースの腕を取り、リディアはフォースを引っ張って止めた。
「待って。祭壇が見たいの」
「んじゃ、こっちだ」
フォースはサッと方向転換をし、リディアを連れて神殿正面に向かった。