レイシャルメモリー 3-05


   ***

 大きな扉を開けてフォースとリディアは神殿の中に入った。正面に見える祭壇は、フォースの目に見慣れたモノと、いくらか違って見える。前の祭壇はライザナルに占領されていた時に、破壊されてしまったに違いない。だが既に祭壇は、すっかり元のように整えられていた。
「外から見るより広く感じる」
 そう言うと、リディアは祭壇の側まで足を運び、真ん中に置かれているシャイア神の像を見上げる。フォースは一番前の椅子まで行って腰掛けた。リディアは微笑みをチラッとフォースに向けると、大きく息を吸い込み、歌にして吐き出す。リディアの丸く響く歌声が、空間の隅々まで響き渡る。

 ディーヴァの山の青き輝きより
 降臨にてこの地に立つ
 その力 尽くることを知らず
 地の青き恵み
 海の青き潤い
 日の青き鼓動
 月の青き息
 メナウルの青き想い
 シャイア神が地 包み尊ぶ
 シャイア神が力
 メナウルの地 癒し育む

 聖歌の中でも、青の部分と呼ばれる箇所だ。フォースの脳裏に、ヴァレスに入る前に見えていたディーヴァの山々が浮かぶ。降臨がない時は、シャイア神もその山に住み、空を操ってメナウルに豊作をもたらすとされている。 その力を目の当たりにして、フォースは空恐ろしさを感じた。メナウルとライザナルの間の国境は、降臨が解けていた間に攻め込まれた分、シャイア神がこともなげに元の位置まで押し戻す。この先も飽きることなく、何度も何度もだ。この戦はライザナルを止めないと、メナウルの側からは、どうすることもできないのだ。
 フォースの耳にシャイア神の言葉が甦ってくる。戦士よ。騎士だから? 護衛をしているからか? いや、違う。ハッキリ何かは分からないが、とにかく何かを求められている。フォースは女神から受けた圧力のある言葉を振り払えずにいた。
「フォース、君?」
 突然の呼びかけに、物思いにふけっていたフォースはビクッとして振り返った。リディアの歌も止まる。シスターの服を着た女性が一人、そこに立っていた。
「本当に騎士だったのね」

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