レイシャルメモリー 3-06
側に来るシスターを、フォースは立ち上がって迎えた。だが、その顔にはまったく覚えがない。フォースは自分と同じくらいの歳だと思った。それならば、もしかしたら見習いなのかもしれない。そのシスターは、遠慮がちな笑顔を浮かべる。
「巫女様の護衛なんですね。私も女神付きを仰せつかったの。一緒にお仕事ができるなんて嬉しいわ」
「あ、あの」
話しづらそうなフォースを、そのシスターは不思議そうに見つめる。
「申し訳ないんですが、どなたなのか分からないんですが」
フォースの言葉に、シスターは目を見開いて口を両手で覆った。
「すみません、覚えていなくて」
フォースが頭を下げてもう一度視線を戻すと、そのシスターの瞳からボロッと涙がこぼれ落ちた。慌てたフォースを残し、シスターはサッと身を翻して神殿奥へのドアへと駆け込んでいく。
「ホントに覚えていないの?」
茫然と見送ったフォースの後ろから、リディアが声をかけた。
「全っ然……」
フォースはドアを見つめたままつぶやくように答える。
「ホントに? 兵士の顔は忘れないのに?」
リディアは疑わしげにフォースを見上げた。振り返ってそれに気付いたフォースは、まっすぐリディアの視線を受け止める。
「顔とか名前とか、覚えるのは得意なはずなんだけど」
困惑しきった顔で、フォースはリディアをジッと見つめた。
「どうしよう」
「……、知らないっ」
リディアは眉を寄せて顔を背けると、シスターが駆け込んだドアへと歩き出す。フォースはその後を追いかけた。
「リディア、待てよ、怒ったのか?」
「怒ってない」
その言葉のわりに、声色が冷たい。フォースは、やっとのことでリディアの腕を捕まえ、正面から向き合った。リディアは不機嫌そうに視線をそらし、フォースの目を見ようとしない。
「怒ってるじゃないか」
「怒ってないわ」
「じゃあ、何? どうしてそんな」
「何でもないもん」
リディアは一瞬拗ねた顔をフォースに向けると、またドアに向かって歩を進めた。リディアは、フォースがシスターを気にしているだけで妬いている自分がいとわしかったのだ。フォースには訳が分からず、小さなため息をついてリディアの後に続いた。リディアはドアを開けようと手を伸ばす。
「フォースっ!」