レイシャルメモリー 3-07
いきなりそのドアが開き、向こう側から大きな声が響いた。リディアは驚いて小さな悲鳴を上げ、フォースに抱きつく。リディアを抱き留めて、フォースはその声の主に視線を向けた。声の主はフォースの知った顔で、アリシアという女性だった。ブラウンの肩より少し長い髪を後ろに一つにまとめ、少し濃い茶色の目に角を立てている。フォースは緊張を解くように大きく息を吐き出した。
「なんだ。どんな化け物が出たのかと思った」
「化け物って何よ! あ、巫女様? ごめんなさい、脅かしちゃったのね」
リディアの存在に気付いたアリシアの視線が、申し訳なさそうにリディアに向く。リディアはフォースの腕の中でいいえと首を振り、不安そうにフォースを見上げた。フォースはリディアに苦笑を返す。
「この人はアリシアってんだ。ヴァレスに住んでいた時に使用人をしてくれてたマルフィさんって人の娘だよ。俺の姉みたいな人で、俺より四つも上」
「ちょっとっ! 歳は余計よっ。アリシアです、よろしくね」
アリシアの笑顔に、リディアはヒョコッと頭を下げた。
「リディアと言います」
「可愛い巫女様だわね。あんたが護衛だなんて危険だわ。なぁんにもできないの分かってる?」
アリシアの向けた冷笑に、フォースは薄笑いを返す。
「俺、信用されてるから」
「それって男としてどうなのよ」
アリシアは、いかにも楽しそうにフォースの顔をのぞき込んだ。フォースは腹立たしそうにアリシアの瞳を横目でにらむ。
「てめぇ……」
「だいたい帰ってくるなり女の子泣かすってどういうことよ。あんたが帰ってくるの楽しみにしていたのよ、ユリアちゃん」
アリシアの言葉に、リディアが眉を寄せてフォースを見上げた。フォースは困惑してため息をつく。
「まいったな。名前にも覚えがない」
「何ですって? ユリアちゃんに覚えていないだなんて言ったの?」
アリシアは呆気にとられたように言うと、フォースをにらみつける。
「それは泣きもするわよ。三年前に襲われてたのを助けて貰ったって言ってたわよ? あんた、危ないところを徘徊するのが好きみたいだから、争いごとに出くわすのも多いだろうけど、助けた娘くらい覚えときなさいよねっ」
アリシアはバカと一言付け足して、フォースの胸プレートをゴンとこぶしで殴った。フォースは憮然とした表情になる。
「別に好きで歩いてるわけじゃない。そういう時は努めて顔を見ないようにしてるんだ、覚えてるわけ無いだろ」