レイシャルメモリー 3-08


 フォースの言葉に、アリシアは疑うような眼差しを返す。
「どうしてよ」
「俺が覚えていたら、そんなことがあったってことを忘れる時に邪魔だろ」
 フォースはそう言いながら、そっぽを向いてしまったリディアをチラチラと気にしている。アリシアは無理矢理フォースと顔を突き合わせた。
「あのね、そんな簡単に忘れられるモノじゃないの。刺さったトゲは抜かなければ治らないのよ」
 フォースは、顔をしかめてうつむいたリディアを、心配げに見下ろした。アリシアはその様子を訝しげに見つめる。
「こんなところで何をしているの?」
 細い廊下の先から声がかかり、視線がそこに集まった。背の低いふくよかな体型の女性がそこにいる。
「リディア、さっき言ったマルフィさん」
 フォースは、リディアにささやきかけた。
「お帰り、フォース。そちらが巫女様ね」
 マルフィに微笑みを向けられて、リディアはハイと返事をした。
「話し込んじゃって」
 アリシアは今までの表情が演技だったかのように、ニッコリ笑って肩をすくめる。マルフィは肩でため息をついた。
「ユリアさん、一人で巫女様の湯浴みの準備をしていたよ。仕事に行かないんなら手伝っておあげ」
「私、自分でします」
 リディアの申し出に、アリシアが目を丸くした。マルフィは思い切り朗笑する。
「昔、ミレーヌさんもそう言ったよ。じゃあ、行くかい?」
「はい」
 リディアはマルフィに微笑みを向けた。マルフィはリディアの隣に立ち、何事か話しながら細い廊下を並んで神殿の奥へと歩き出す。フォースとアリシアも後に続いた。
「ミレーヌさんって……?」
 アリシアは、記憶に引っかかった言葉を思い出せずに、小声をフォースに向けた。フォースも声を潜める。
「リディアのお母さん」
「え? 母も娘も巫女? あれ? じゃリディアちゃんってシェダ様のお嬢様? ルーフィス様が言ってらしたあの? 襲われてたのを助けたってあの娘?」
 アリシアの質問が底をつくと、フォースは面倒臭そうに一度だけ首を縦に振った。アリシアはいきなりフォースの鎧のネックガードを引っ張り、耳に口を寄せる。
「どうしてリディアちゃんは覚えてたのよ。ってか、なんで呼び捨て。え? あんたトゲ抜き?」

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