レイシャルメモリー 3-09
その言いように、フォースは横目でアリシアをにらみつけた。アリシアはゆっくりため息をつき、今度は思い切り息を吸い込む。
「なんで言わないのよっ!!」
その大声に驚いて身を引いたフォースは、狭い廊下の壁に背中と後頭部をぶつけた。前を行くリディアとマルフィが、何事かと振り返る。
「てめぇ、耳元で……」
フォースは頭を抱えてつぶやくと、アリシアに胡散臭そうな視線を向けた。
「どう説明すれば納得するってんだよ」
「知ってるのと知らないのとじゃ全然違うでしょう?」
「話す余裕があったかよ。最初からブリブリ怒ってただろうが」
「あんたが化け物だなんて言うからでしょう? あんたいつも仕事仕事ってそればっかりだから、想像もできなかったのよっ」
言葉の速度を上げたアリシアを見て、また始まったとばかりにフォースはため息をついた。
「そんなのアリシアの方がずっと深刻だろ。うるさいこと言ってないでサッサと嫁に行けよ」
「私がいないと困るのよ。今仕事を辞めるわけにはいかないわ」
「仕事仕事って言ってるのはてめぇの方だろ」
マルフィが手慣れた様子でヒョイと二人の間に入る。
「はいはい、おやめなさい。巫女様の前でみっともない」
マルフィは、憮然としているフォースとアリシアの顔を見比べた。
「もしかして、あんた達が結婚すれば丁度いいんじゃないの?」
『誰がこんな!』
声が綺麗に重なり、フォースとアリシアは顔を見合わせた。マルフィは朗らかに笑い出す。
「ほら、息もピッタリじゃない」
アリシアは肩が落ちるほどのため息をついた。
「お母さん、冗談にもならないわよ」
「コロコロと一緒くたに育てておいて、そりゃないだろ」
つぶやいたフォースの言葉に、リディアが肩をすくめてフフッと笑った。フォースはリディアの顔をのぞき込む。
「笑い事じゃないって」
「フォース、アリシアさんのこと好きなのね」
リディアは真っ直ぐフォースに笑顔を向けた。フォースは、少し前まで機嫌が悪かったリディアを、不安げに見つめる。
「どうしたの? 本物のお姉様みたいねって」
フォースは罰が悪そうに苦笑を返した。アリシアは両手を広げ、アーアと声に出してため息をつく。