レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第1部2章 女神の開戦
4. 告白 01


 大きく息を吐いて目を開けると、フォースの視界に狭い部屋の四角い天井が目に入った。明かりを一つ灯しているだけの薄暗い部屋には、中央にベッドが一つと奥に本棚、その後ろには何が入っているか分からない箱がいくつかある。
 寝返りを打ち、ドアの方に身体を向けたとたん、後頭部に軽い痛みが走った。アリシアに水汲みで殴られたことを思い出し、あの野郎などと悪態をつく。湯浴みするリディアの側にいて、綺麗な肌だの結構胸が大きいだのとアリシアがやかましいので、つい言われなくても知っていると言ってしまった自分も自分だとは思ったが。
 リディアが女神に降臨されてから、二人のこれからのことについてなど、少しも話しをしていない。一緒にいても、フォースはリディアをエスコートしていただけだ。ヴァレスを奪還してからは、女神の声は聞こえていない。こういう合間に、少しでもリディアと話しておきたいと、フォースは思っていた。
 シェダのことも、何を考えているのかをもっと理解する必要があるだろう。当然リディアの幸せを一番に考えているのだろうが、はたしてそれがどこまで降臨を受けていることと関わっているのか。
「フォース?」
 部屋の外からのグレイの声に、フォースはベッドに肘を立て、少しだけ身体を起こした。
「どうぞ」
 ドアが薄く開いて、グレイが部屋をそっとのぞき込んだ。グレイの向こう側、廊下の向かい側にバックスと、その後ろにリディアが休んでいる部屋のドアが見える。グレイは静かに部屋に入り、後ろ手にドアを閉めた。
「寝てた? ら、返事しないか」
「呼ばれて起きたとは思わないんだな?」
「愚問」
 グレイの朗笑に、フォースは肩をすくめた。
「なにか話でも?」
「ん、落ち込んでもらおうと思ってさ」
 グレイの声は明るいままだが、表情が幾分硬くなっている。
「降臨のことか?」
 グレイをチラッとだけ見やり、フォースはベッドの上にあぐらをかいて座った。グレイはため息をつく。
「想像、ついてるのか」
 グレイはフォースが勧めたベッドの端に斜めに腰掛け、フォースの方に身体を向けた。フォースは視線を落としたまま、微苦笑を浮かべる。
「深く考えたくなくて、避けてたからな」
「だったら話しやすい」
 その言葉にフォースは顔を上げ、グレイと視線を合わせた。
「……こともないか」
 構えていた気持ちをすかされて、フォースは呆気にとられ、ムッとしたようにグレイと顔を突き合わせる。
「言えよ」
 グレイは乾いた笑いを浮かべると、ゆっくりと首を横に振った。
「降臨ってさ、巫女が亡くなるまで続いたことがあったんだよね。三十二年間も」

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