レイシャルメモリー 4-02
「三十二年間? へぇ」
特に表情を変えないフォースに、グレイは眉を寄せた。
「へぇ、って……」
「俺には一年も三十二年も変わらないよ」
「へ?」
「へじゃなくて。どうせ前例の話だろ」
フォースは、その言葉は聞き飽きたと苦笑する。グレイはフォースを疑わしげにのぞき込んだ。
「問題発言。降臨解こうとしてないか?」
「最後の一線って奴か?」
フォースの言葉に、グレイはコクコクと何度もうなずいた。フォースは喉の奥でククッと笑う。
「女神の意志が通じるんだから、こっちの意志も通じるかもしれないだろ。なんにしてもリディアがどうしたいのか、一度キチンと話をしようと思って」
「リディアがどうしたいかねぇ」
グレイは難しい顔で腕組みをし、ウーンとうなり声を上げる。
「でも、承諾してたよな」
「何をだ?」
「いや、私も側にいたい。って」
フォースの脳裏に、降臨される直前のリディアが甦ってきた。今さらだが、降臨さえなければ今頃は違う意味で一緒にいられたかもしれないと思う。フォースは、グレイにそこまで見られていたことにまったく気付いていなかった自分に呆れた。
「グレイ、ホントに何から何まで全部……」
つぶやくようにフォースが口にした言葉に、グレイは人差し指を立てて、ニッコリと微笑む。
「第三者の証言は大切です」
「いらねぇよ!」
フォースはベッドに勢いよく寝転がった。グレイはフォースに視線を投げる。
「それにしてもいいよなぁ。俺のシャイア様の意志が分かるなんて」
「俺のって」
「恋人だよ、恋人。なぁ、どんな感じ?」
グレイの興味津々な声に、フォースは苦笑しながら天井に向けて眉を寄せた。
「そうだな、最初は頭を殴られたような感じだった。衝撃が薄れると、言葉が残ってるっていうか」
「今は?」
「そのガンってくるのは、だいぶ薄れた。声はないんだけど、頭の中に聞こえる」
フォースの言葉に、グレイはフーンと返事をしながら口を尖らせる。
「羨ましいよ」
「意志が通じれば……。こっちから何も言えなければ意味がない。リディアが伝えてくれれば、それで済むことだ」
グレイはウーンとうなって腕を組んで頭を掻いた。フォースはグレイに視線を向ける。
「なんだよ」
「いや、リディアが伝えてもさ、それはリディアの言葉だろ。直に聞けるってのは、やっぱり意味があるよ」