レイシャルメモリー 4-03
「……、そうかもな。でも、急かされるだけだったからな。意味なんて」
そう言いながらフォースは、女神から直接呼びかけられた戦士よ、という声を思い出していた。だがもし意味があるとしても、戦士という言葉だけではどうにも解釈ができない。フォースは天井に向かって、深いため息をついた。そのため息が消えないうちに、ドアにノックの音が響く。
「サーディ様、スティア様がご到着なさいました」
ドアの向こう側から、ユリアの声が聞こえた。フォースとグレイは顔を見合わせる。
「サーディ?」
言うなりグレイはベッドから立ち上がり、フォースは上半身を起こす。
「スティアまで」
フォースはベッドから飛び降りると、グレイと慌てて部屋を出た。廊下でバックスとなにやら話をしていたユリアが向き直り、バックスに敬礼だけ向けて通り過ぎようとしたフォースを引き留める。
「付き合ってください」
「どこにです? こんな時に」
フォースは面倒臭そうに顔だけユリアに向けた。
「お前……」
側にいたバックスが、呆れ返ったようにため息をつき、フォースは訝しげにバックスを見やった。ユリアは、フォースの背中に向かって言葉を継ぎ足す。
「お付き合いしていただけないなら、私このままシスターになります」
「……、あ。ええっ?」
フォースは、何を言われたのか気付いてから改めて驚き、振り返ってユリアをまじまじと見た。頭の中をリディアの存在がかすめてフォースは視線をそらし、それからもう一度しっかりとユリアを見据える。
「でも、俺は」
「考えておいてください!」
ユリアはフォースの言葉を遮ってそれだけ言うと、サッと身を翻し、廊下突き当たりの階段を駆け下りていった。茫然と見送ったフォースを見て、グレイは平たい笑い声を上げる。
「やるなぁ。返事を聞く前に逃げるなんて、なかなか」
「しかもココで声をかけたあとに、こんな話を持ち出すなんざ」
バックスは小声で付け足すと、苦笑して後ろのドアを親指で示した。そのドアが薄く開き、コンとバックスの背中に当たる。
「あ、ごめんなさい」
ドアの隙間から聞こえてくるリディアの声に、バックスはこちらこそと答えながら振り返ってドアを開けた。心配げな視線が一斉にリディアに向く。
「どうしたの?」
リディアは微苦笑して、三人を順番に見た。バックスがリディアの肩に、ポンと手を乗せる。
「いや、なんでもないよ。それより迎えに出なきゃね」
バックスはリディアの肩に手をかけたまま歩き出した。つられて歩き出したリディアは、二、三歩進んで、浮かぬ顔をしたフォースを少しだけ振り返った。